和歌と俳句

万葉集

巻第三

挽歌

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     石田王卒之時丹生王作歌一首 并短歌
名湯竹乃 十縁皇子 狭丹頬相 吾大王者 隠久乃 始瀬乃山尓 神左備尓 伊都伎坐等 玉梓乃  人曽言鶴 於余頭礼可 吾聞都流 狂言加 我聞都流母 天地尓 悔事乃 世間乃 悔言者 天雲乃  曽久敝能極 天地乃 至流左右二 杖策毛 不衝毛去而 夕衢占問 石卜以而 吾屋戸尓 御諸乎立而  枕邊尓 齋戸乎居 竹玉乎 無間貫垂 木綿手次 可比奈尓懸而 天有 左佐羅能小野之 七相菅  手取持而 久堅乃 天川原尓 出立而 潔身而麻之乎 高山乃 石穂乃上尓 伊座都類香物 

     石田王が卒りし時に丹生王が作る歌一首 并せて短歌
なゆ竹の とをよる皇子 さにつらふ わご大きみは こもりくの はつせの山に 神さびに いつきいますと 玉梓の  人ぞ言ひつる およづれか 吾が聞きつる たはことか 我が聞きつるも 天地に 悔しきことの 世のなかの 悔しきことは  天雲の そくへの極み 天地の 至れるまでに 杖つきも つかずもゆきて 夕占問ひ 石卜もちて 吾がやどに みもろを立てて  枕辺に 齊べをすゑ 竹玉を 間なく貫き垂れ 木綿だすき かひなに懸けて 天なる ささらの小野の 七ふ菅  手に取り持ちて ひさかたの 天の川原に 出で立ちて みそぎてましを 高山の いはほの上に いませつるかも

     反歌
逆言之 狂言等可聞 高山之 石穂乃上尓 君之臥有

およづれの たはこととかも 高山の いはほの上に 君が臥やせる

石上 振乃山有 杉村乃 思過倍吉 君尓有名國

いそのかみ ふるのやまなる 杉むらの 思ひ過ぐべき 君にあらなくに

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