和歌と俳句

万葉集

巻第三

挽歌

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     天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首

     天平三年辛未の秋の七月に 大納言大伴卿の薨ぜし時の歌六首

愛八師 榮之君乃 伊座勢婆 昨日毛今日毛 吾乎召麻之乎

はしきやし 栄えし君の いましせば 昨日も今日も 吾を召さましを

如是耳 有家類物乎 芽子花 咲而有哉跡 問之君波母

かくのみに ありけるものを はぎの花 咲きてありやと 問ひし君はも

君尓戀 痛毛為便奈美 蘆鶴之 哭耳所泣 朝夕四天

君に戀ひ いたもすべなみ 蘆鶴の 哭のみし泣かゆ 朝夕にして

遠長 将仕物常 念有之 君師不座者 心神毛奈思

とほながく 仕へむものと おもへりし 君しまさねば 心どもなし

若子乃 匍匐多毛登保里 朝夕 哭耳曽吾泣 君無二四天
      右五首資人余明軍不勝犬馬之慕心中感緒作歌

みどりこの 匍ひたもとほり あさよひに 哭のみぞ吾が泣く 君なしにして
      右の五首は 資人余明軍 犬馬の慕に勝へずして 心の中におもひて作る歌

見礼杼不飽 伊座之君我 黄葉乃 移伊去者 悲喪有香
      右一首勅内礼正縣犬養宿祢人上使?護卿病 而醫藥無驗逝水不留 因斯悲慟即作此歌

見れど飽かず いましし君が もみちばの うつりいゆけば 悲しくもあるか
      右の一首は 内礼正県犬養宿祢人上に勅して卿の病を検護しむ しかれども 医薬の験なく 逝く水留まらず これによりて悲しみて すなはちこの歌を作る

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