和歌と俳句

万葉集

巻第四

相聞

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     柿本朝臣人麻呂歌四首
三熊野之 浦乃濱木綿 百重成 心者雖念 直不相鴨

み熊野の 浦の浜木綿 百重なす 心は思へ ただにあはぬかも

古尓 有兼人毛 如吾歟 妹尓戀乍 宿不勝家牟

いにしへに ありけむ人も 吾がごとか 妹に恋ひつつ いねかてずけむ

今耳之 行事庭不有 古 人曽益而 哭左倍鳴四

今のみの わざにはあらず いにしへの 人ぞまさりて ねにさへなきし

百重二物 来及毳常 念鴨 公之使乃 雖見不飽有武

百重にも 来しかぬかもと おもへかも きみが使の 見れど飽かずあらむ

     碁檀越徃伊勢國時留妻作歌一首
神風之 伊勢乃濱荻 折伏 客宿也将為 荒濱邊尓

     碁檀越 伊勢の国に往く時に 留まれる妻の作歌一首
神風の 伊勢の濱荻 折り伏せて たびねやすらむ 荒き浜辺に

     柿本朝臣人麻呂歌三首
未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者

をとめらが 袖振る山の みづかきの 久しき時ゆ おもひきわれは

夏野去 小壮鹿之角乃 束間毛 妹之心乎 忘而念哉

夏野ゆく を鹿の角の 束の間も 妹が心を 忘れておもへや

珠衣乃 狭藍左謂沈 家妹尓 物不語来而 思金津裳

たまぎぬの さゐさゐしづみ 家の妹に 物言はず来にて 思ひかねつも

     柿本朝臣人麻呂妻歌一首
君家尓 吾住坂乃 家道乎毛 吾者不忘 命不死者

     柿本朝臣人麻呂が妻の歌一首
君が家に 吾が住坂の いへぢをも 吾れは忘れじ 命死なずは

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