和歌と俳句

万葉集

巻第四

相聞

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     安倍女郎歌二首
今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎

いまさらに 何をかおもはむ うち靡き こころは君に よりにしものを

吾背子波 物莫念 事之有者 火尓毛水尓母 吾莫七國

わがせこは 物なおもひそ 事しあらば 火にも水にも 吾れなけなくに

     駿河?女歌一首
敷細乃 枕従久〃流 涙二曽 浮宿乎思家類 戀乃繁尓

しきたへの 枕ゆくくる 涙にぞ うきねをしける 恋の繁きに

     三方沙弥歌一首
衣手乃 別今夜従 妹毛吾母 甚戀名 相因乎奈美

衣手の 別るこよひゆ 妹も吾れも いたく恋ひむな あふよしをなみ

     丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首 并短歌
臣女乃 匣尓乗有 鏡成 見津乃濱邊尓 狭丹頬相 紐解不離 吾妹兒尓 戀乍居者  明晩乃 旦霧隠 鳴多頭乃 哭耳之所哭 吾戀流 千重乃一隔母 名草漏 情毛有哉跡  家當 吾立見者 青旗乃 葛木山尓 多奈引流 白雲隠 天佐我留 夷乃國邊尓 直向  淡路乎過 粟嶋乎 背尓見管 朝名寸二 水手之音喚 暮名寸二 梶之聲為乍 浪上乎  五十行左具久美 磐間乎 射徃廻 稲日都麻 浦箕乎過而 鳥自物 魚津左比去者  家乃嶋 荒礒之宇倍尓 打靡 四時二生有 莫告我 奈騰可聞妹尓 不告来二計謀

     丹比真人笠麻呂 筑紫國に下る時に作る歌一首 并せて短歌
臣の女の くしげに乗れる 鏡なす みつの浜辺に さ丹つらふ 紐解きさけず わぎもこに 恋ひつつをれば  あけぐれの あさ霧ごもり 鳴く鶴の ねのみしなかゆ 吾が恋ふる 千重のひとへも なぐさもる こころもありやと  家のあたり 吾が立ち見れば 青旗の かづらき山に たなびける 白雲隠る あまさがる ひなのくにへに ただむかふ  淡路を過ぎ 粟島を そがひに見つつ 朝なぎに かこのこゑよび ゆふなぎに 梶のおとしつつ 浪の上を  い行きさぐくみ いはの間を い往きもとほり いなびつま 浦みを過ぎて 鳥じもの なづさひゆけば  家の嶋 荒磯のうへに うち靡き しじに生ひたる なのりそが などかも妹に いはず来にけむ

     反歌
白細乃 袖解更而 還来武 月日乎數而 徃而来猿尾

    反歌
しろたへの 袖解きかへて かへりこむ 月日をよみて 往きて来ましを

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