幸伊勢國時當麻麻呂大夫妻作歌一首
吾背子者 何處将行 己津物 隠之山乎 今日歟超良武
伊勢国にいでます時に 當麻麻呂大夫が妻の作る歌一首
吾が背子は いづく行くらむ おきつもの なばりの山を 今日かこゆらむ
草嬢歌一首
秋田之 穂田乃苅婆加 香縁相者 彼所毛加人之 吾乎事将成
秋の田の 穂田のかりばか かよりあはば そこもか人の 吾をことなさむ
志貴皇子御歌一首
大原之 此市柴乃 何時鹿跡 吾念妹尓 今夜相有香裳
大原の このいち柴の いつしかと 吾がもふ妹に こよひあへるかも
阿倍女郎歌一首
吾背子之 盖世流衣之 針目不落 入尓家良之 我情副
吾が背子が けせる衣の 針目おちず 入りにけらしも あがこころさへ
中臣朝臣東人贈阿倍女郎歌一首
獨宿而 絶西紐緒 忌見跡 世武為便不知 哭耳之曽泣
ひとりねて 絶えにし紐を ゆゆしみと せむすべ知らず ねのみしぞ泣く
阿倍女郎答歌一首
吾以在 三相二搓流 絲用而 附手益物 今曽悔寸
吾がもてる 三相によれる 糸もちて 付けてましもの 今ぞ悔しき