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… 「片側の未来」☆樹編 …
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 一瞬反応しかけて、すぐに思い直した。

 そうよ、この手に何度乗ってると思ってるの。いい加減、学習しなくちゃ。

 

「あんたの、初恋って。そりゃ、一番最初の彼女のことでしょ? そんなの秘密でも何でもないじゃない」

 ほら、ご覧なさい。私だって、そう何度も引っかかったりしないんだからね。ちょっと得意になって横目で視線を返すと、奴は相変わらずの笑みを浮かべている。ううん、それどころか、さっきよりももっと嬉しそう。ひとつフィルターを重ねたみたいに見えた。

「ふふ、そう来たか。やっぱ、お前って単純。そんなのサルでも分かるって奴だろ? わざわざ言うほどのこともないじゃないか。――ま、いいけどね。聞きたくないんなら、それで」

 それだけ言い終えると、また窓の方を見る。細い隙間から、何が見えるというのだろう……? ああ、嫌だ。気にしないって決めたのに、なんかイライラする。やっぱ、これって乗せられてるのかな。

 

「何見とれてるの?」

 しばらくたって、奴は横顔のままでそう告げた。ハッとして視線をそらしたんだけど、かえって逆効果だったかな。ああん、もう。何ぼんやりとしていたのかしら。我ながら情けないわ。

「あ、あんたを見てたんじゃないわよっ! その後ろの飾りを眺めてたのっ……!」

 ああ、我ながら苦しい言い訳。何だか、どんどんとどつぼにはまっていく気がする。

 奴は「ふうん」と鼻を鳴らすと、壁を振り向く。暗幕の上に両面テープで綺麗に貼り付けられた風景画。色画用紙を切り抜いて、四季の風景を描いている。彼のすぐ後ろは桜の大木。まだら模様の幹が太くのびて枝を広げ、満開の花を咲かせていた。

「……そうか、春だったな」

 そう言った槇原樹の指先には花びらのひとひらがくっついていた。ちらちらと散りゆく様を表現するんだと、美術部員と演劇部員が必死になっていたのを思い出す。軽く貼り付けたテープが湿った空気ではがれてしまったんだろう。

 

 ――何よ、また。そうやって思わせぶりに。

 

 絶対に、反応してなんてやらない。また、暇つぶしに遊ばれるんだから。思い切り顔を背けたら、またくすくす笑いが追いかけてくる。そんなに笑わなくたっていいじゃない。そりゃ、あんたみたいに面の皮が厚くはないわよ。こっちは一般人なんだから。

「何かさ、噂によると。俺ってすごく早熟だったらしいよ。生まれながらのナイトだって近所でも評判で、よちよち歩きの頃から、毎日のようにプロポーズされてたんだって」

 ……はぁっ!?

 またそうやって、おかしなことを言い出す。そして、思わずうっかりと視線を向けてしまうのよね、私の方も。

「まあ、相手は公園で会う近所のおばちゃんだったりコンビニのバイトのお姉ちゃんだったりしたけど。向こうはからかっているつもりでも、ガキだから真に受けて、家に帰って鬱々悩んでいたらしいよ。可愛かったんだなあ、俺。でも、どんな誘惑にもなびかなかったよ、だってちゃんと本命がいたもの。おヨメさんって、ひとりしか駄目だから、諦めてとか言い返していたらしい。我ながら、可愛すぎ」

「へえ……、さすがね。口説かれるのには年季が入ってるんだ。だもん、あしらい方も上手いはずよ」

 まあ、この話は本当かも。だって、中学の頃にファンの子から見せて貰ったことがあるよ、ちっちゃい頃の写真。そりゃもう、頭にわっかを付けて羽を背負わせたら、そのまんまエンジェルだったわね。よくもまあ、親御さんがモデルにして稼がせようとしなかったもんだと思う。もしも自分の子だったら、必死にメディアに売り込んでいたわ。

 最初に遭遇したバレー部員たちとの攻防。明日美さんを初め元カノさんたちとのやりとり。コイツの態度にはいつでも躊躇というものがない。自然なままに上手に流しているという感じで。だからこそ、周りは丸め込まれてしまうんだろうね。

「そんなに早くから本命がいたなら、ずーっと仲良くしてれば良かったじゃないの。あっちこっちに飛び回るなんて、馬鹿みたい。それじゃあ、その人も呆れちゃうでしょ? ……ああ、とっくにそうなっていたとか? もうヤケっぱちだったのかな」

 まだ、学習していない小さな頃なら、そんな失敗もあるはず。いくら何でも最初から恋上手ではなかったでしょう? ――いや、コイツに限っては分からないけど。

「うーん、……それはどうかなあ」

 くすくす。まだ笑ってる。本当に、ムカつくったらないわ。どうしていつもそうなのよ。

「最初から、俺のことは対象外だったみたいだから。でも、今でも仲良くしてるよ? 彼女には出来なくてもちゃんとね。だから、いいんだ」

「はぁ……」

 何それ。「対象外」って……ものすごーく年上の女性とか? となると、近所のおばちゃん……とまでは行かなくても、幼稚園の先生とかかな。ああ、あり得る。コイツって本当に手が早そうだもん。おおかた入園早々プロポーズして、困らせたんじゃないの?

「ああ、これも知ってる? 俺って、ものすごいマザコンでシスコンらしいよ? 遠回しにそんなことを聞かれたこともあるし。――でもな、面と向かってまで、指摘する奴はさすがにいなかったな。でも、察しのいい奴はだいたい分かってたんじゃないかなあ……?」

 

 立ち上がって、窓際に歩いていく。

 外は真っ暗なのに、何しに行くんだろ? あんまり目立つところにいたら、見回りの警備員さんに気付かれるよ。うっすらと差し込んでくる外照明で、上半身が照らされる。縁取りが綺麗に浮かび上がって。

「入園式の日にね」

 窓枠に後ろ手に手をついて、ぼんやりと天井を見上げる。何かを思い出そうとしてるみたいに。

「小さな入園児がいっぱいいて、後ろの方にはビデオカメラを掲げたパパや綺麗に着飾ったママが並んでいて。でも、これからはここに通わなくちゃならないんだって、不安で押しつぶされそうになりながら振り向いたら、……そこに彼女はいたんだ。
 桜の木の下で、俺をまっすぐに見つめて。誰よりも不安げな瞳をしていた。その時、分かったよ。俺の守るべき人はやっぱりあの人しかいないって。絶対に俺の力で幸せにしてやるんだって、決心した」

「……?」

 言葉はなく、ただ魅せられていた。何でこの男はこんな風に引きつける力を持っているんだろう。それに。今の話を聞いただけで、入園式の風景が浮かんでくる。彼の描き出した映像の中に入り込んだ気分で、でもその女性が誰なのかが分からない。

「ふふ、まだ分からない? ……それほど意外な訳でもないんだけど」

 私がなかなか答えないのが、どうしてそんなに嬉しいんだろう。小馬鹿にされているだけなんだろうなと思っても、上手に巻き込まれてしまう。一呼吸する間合い。その空白にすっぽり入り込んで。このまま抜け出せなくなったら、私はどうしたらいいんだろうか。

「その人ね、すごく大切な人がいて。だから、俺なんて絶対に太刀打ちできるわけなかったんだ。でも、あの頃はそうは思わなかったな。頑張れば絶対にそいつを追い抜いてみせるって信じられた。だから、頑張ったんだよ、すごく。自分に出来ないことなんてないんだって、躍起になって。だけど……駄目なんだ」

 視線が、足下に移る。長いまつげ、ふわりと揺れて。

「俺の想いが深くなればなるほど、あの人は悲しむ。大切にしたいのに、出来ないのが口惜しかった。その上、いつでもアイツが彼女の隣をしっかりとキープしてる。俺に出来ないことを全部して、あの人を独り占めにするなんて許せない。――負けたくなかったんだ、どうしても」

 どこかで、聞いたような話だなと思った。ううん、それは外から耳にした言葉ではなくて、私の内側から、湧いてきたものだったのかも。遠くない、すごく最近の感覚。ああ、でも思い出せなくて。
 喉に引っかかったまま、取れない魚の骨みたい。そんな鬱陶しさをこらえている私を、奴は知っているんだろうか。ゆったりと、話は続く。早く途切れさせないと、戻れなくなる。私の心が警告音を鳴らした。

「でも……私も良く知ってる人間って。共通の知り合いがそんなにいるわけないでしょ? それに何、もしかして、その人はまだ近くにいるの? だったら、さっさとモノにしたらどうなの。こんなところでいつまでもぐるぐる回り道をしていていいはずないわ、周りも迷惑するんだから」

 私の言葉。そんなに意外だっただろうか。槇原樹はこちらを振り向いて、そのまま表情を止めた。

「好きなら好きって、言えばいいじゃない。うだうだ悩んでいたって仕方ないわ。あんたがそんなに女々しい奴だとは思わなかった。やめてよ、もう……!」

 

 人のこと、さんざん見下して。それで自分はどうなのよ。その人がもしかして「意中の相手」かな。だったら、もういいじゃない。少しくらい年上なのかも知れないけど、それならそれで。ちっちゃい頃はたいそうな年の差だったとしても、今ならどうにか。……違うの?

 これ以上、巻き込むのはやめて。あんたにはそのつもりがないのかも知れないけど、私は困るの。西の杜のみんなみたいに出来た人間じゃないのよ。そこら中がほころびだらけで、すぐにポケットから勇気が抜け落ちちゃう。

 ――せめて、私の手の届かないような素晴らしい存在を追いかけてくれたら。そしたら、その時にようやくこの気持ちから解放されるはず。だから、早く辿り着いて。もうこっちを振り向かないでよ。

 

「え……、いいの?」

 きょとんとした表情で、奴は言う。何をそんなに驚いているのよ、当然のことを言ったまででしょ?

「あ、……当たり前でしょ! 今までそこら中にまき散らしていた心を全部束にしてどーんと突き進めば、絶対に大丈夫なんだから。あんた、天才なんでしょ? だったら、大丈夫よっ!」

 なんかもう、自分でも訳が分からなくなってきた。だって、もどかしいんだもん。どうして煮え切らないのよ、しっかりしなさいよ。けど、奴はまだぼんやりとしてる。

「薫子がそんな風に言い出すなんて思わなかった。……すごい意外。お前、変わったよな」

 そこまで言って、ようやくふふっと笑った。思わず魅せられてしまう照れ笑い。もしここにウチの兄がいたら、ご自慢の一眼レフでシャッターを押しまくるんだろうな。

「でもなあ、……本当にいいの? 感情のままに突き進むには倫理的にだいぶ問題があるし。……それともアブノーマルな方が薫子の好みなのかな、そんなに興味ある?」

「……え? どういうこと……?」

 もう、訳分からない。また、そんな風にはぐらかすんだから。すると、奴は制服の内ポケットを探って、パスケースを取り出した。そして、中を開いて見せてくれる。

「この人なんだけど、……どうする?」

 私は思わず目を疑った。……え、でも。まさかよ、まさか。そりゃ、マザコンにシスコンとは言ったわ。当然のことだと思うの、すごい面々が身内に揃っているんだもん。周りなんてぼやけて見えるはずよね。でも……。

「う、それは――」

 

 すごい見覚えある画像。

 だって、そうだよ。それって、私がパウチしたんだから。兄が収集したネガの中から、一番素敵なのを選んで。そうね、確かによく知ってる人だけだわ。それに電話だったけど、直接話もしたし。だけど、……本当に? また担がれてるんじゃないかしら。

 

「出来れば、止めて欲しいんだけど」

 そう言った顔が、笑っているのにとても悲しそうに見えた。

 


「そりゃあさ、ガキの頃は身長だってだいぶ違うし。アイツには絶対に敵わないなと思った」

 元の通りに床にぺたんと腰を下ろして。奴は三本目のドリンクを取り出した。今度はスポーツ飲料だ。半透明の水がペットの中で踊る。

 だけど、違うんだよな。膝を抱えた人が、小さな声でそう付け足す。

 いつの間にか奴の話をまた聞き続ける羽目になってしまった。まあ、それほどの秘密じゃない気もする。もしかしたらって思うこともあったもの。だけど、こんな風に引きずっているなんて、やっぱり意外。そんなに身近にいたら、いつか憧れも薄れていくものだと思うのに。

「今じゃ、目線だってだいたい同じなんだよ。なのにまだ、届かない。それどころかもっと遠くなった気がする。俺が底辺でまごついているうちに、奴はどんどんすごくなるんだ。憎ったらしくて、どうしようもなくて。――で、ある時にやっと気付いたんだよ、アイツの底知れぬパワーの源を」

 ……そう言う自分だって、なかなかのものだと思うけど。目標が高いと苦労するんだね。すごい同情しちゃう。

 私の視線に気付いたのか、奴はまたくすりと笑った。少しずつ、素の顔が見えてくるような気がするのはどうして? 覗くと隠すのに、興味もなさそうにしてるとちらりと見せてくる。その辺の加減が本当に上手いなと思う。

「やっぱさ、特別の存在がいないと駄目なんだよ。いくらひとりで頑張ったって、守るべきものがないと。……いつまでたっても空回りばかりだ」

「馬鹿、何言ってるのよ」

 ああ、どうして。こうやって話を聞くのが私なんだろう。なんかすごく場違いな気がする。気の利いたひとことも言えないままに、情けないったらありゃしない。今までの子たちにもこうやって愚痴ったりしたのかな? その時にどんな風に優しい言葉をかけて貰ったんだろう。

「あんたには、いつでも素敵な彼女がいたでしょ? 誰もが羨むような賢くて綺麗な人たちが。どうして彼女たちをもっと大切にしなかったの? 何が足りなかったのか分からない……?」

 自分の言葉に落ち込んでしまう。そうよ、その通りよ。「私を除いては」の注意書きは添えなくちゃならないね。あとは「ああ、この人なら適役!」と思える人ばかりだったもん。

 ね、知ってるでしょ? 私があんたの「彼女」になったときの周りの反応。みんなすごいびっくりしてたもん。半月以上が過ぎて、どうにか見慣れて来たみたいだけど、周囲の興味はもう「次はどんな人?」に移ってきてる。きっと少ししたら彼女が変わるのがデフォルトだから、当然のことに思ってるんだね。

「うーん……、そうだなあ」

 奴は肩に頭がくっつくくらい、大袈裟に首をかしげた。

「言ったろ、俺って才能あるんだから。どうしたら、相手が喜ぶのかすぐに分かる。腹立つけど、これって門前の小僧なんだよな。アイツがそうだったんだ、人の心を捉えるのがとにかく上手い。決まり切ったありきたりなひとことじゃなくて、ちゃんとツボをぐぐっとついてるんだから。けど、そこまで。最初はそれでいいんだけど、途中から駄目になる。不思議なんだ、すごく」

 自慢をしてるんだよね、これ。なんか他人事みたいだよ。持っている能力をフルに活用しながら、それでもまだ満たされないなんて。すごくずるいよ、信じられないよ。もっと簡単に望んでいる幸せは手にはいるはずよ……?

「駄目になるなんて、そんなことないでしょ? 私、思うんだけどさ、明日美さんにしても他の彼女さんにしても、もっともっと大切にして欲しいって思ってたんじゃないかなあ。だからきっと、あんたを試したんだよ、いきなり身を引くような発言して慌てさせたくて。そうよ、そうに決まってる。そうじゃなかったら、おかしいわ」

 ……馬鹿みたい、なんで励ましてるのよ。そんなことする義理もないのに。でもさ、絶対に変だと思うの。誰もが羨む境遇にありながら、こんな風にしてるのは。もっと堂々としてればいい、一度に二股でも三股でもかけちゃってさ、我が物顔に振る舞ってもコイツなら許されると思う。

 何しみったれたこと、言ってるの。そんなの、本物の槇原樹じゃないわ。

「けどさ」

 ほとんど抱えた膝小僧に額を押し当てるような格好になって、奴は言う。

「思った通りにやって、満足されて。その上、どうしろっていうのさ。俺は十分に頑張ってるよ? だって、普通にやってたって駄目なんだぞ。それだとアイツのコピーで終わるんだから。アイツくらいのことは出来て当然なんだよ、その上を目指さないといけないんだ。……それに、いつまで経ったって終わりはない。もういい加減、嫌になったんだ。こんなのやってられないよ」

「ふうん、……そっか」

 

 なんか自分とは次元の違う話なんだけど。

 あまりに世界が違うからこそ、ちょっと理解できる気がした。誰もがお金持ちになりたいと思うだろうけど、もしも湯水の如く使ってもなくならない金蔵があったら、きっと面白くなくなるんじゃないかな。それと同じ。簡単に手に入る愛情ばかりだったら、探すことも辞めてしまいそうだ。

 どんなに頑張っても相応な見返りがなかったら。努力することすら、いつか無意味なものになってしまいそう。何もかもが、自分の思い通りになる。すごく楽しいかも知れないけど、……でも。人のこと言えた義理じゃないけど、コイツもかなりねじ曲がった性格で生きてきたんだなあ。

 

「で、とんでもないボランティアを思いついたんだ。面白かったでしょ、私みたいな変わり者を相手して」

 別にひがみ根性丸出しで言った訳じゃない。当たり前のことを当たり前に口にしただけ。それを分かってくれたのかな。槇原樹もふっと顔を崩した。

「確かにね、……変わり者というか、全く信じられない奴だと思ったよ。学園の生徒たちの中で明らかに浮いてるし、それを修正しようという気もないようだし。普通さ、外部受験組って必死で馴染もうと努力するもんなんだ。それを最初から放棄してるなんて、なんだコイツ、ってね。このままいたら、いつかいなくなるのかと思ったら、結構しぶといし」

 ぽつり、ぽつり、続いていくひとりごと。そのひとことずつに、驚かされるばかりだった。

 ――何、それ。どうして知ってるのよ、私のこと。全然眼中にないって思っていたわ。一番まぶしくライトの当たる場所にいるのがコイツで、その他大勢の人垣の中、埋もれて見えないのが私。薄暗いこっち側からはステージはよく見えるけど、その逆はないよね。……そうじゃないの?

「俺は、この学園が好きだったし。だから、思いっきり居心地のいい空間にしたいなと思ってた。中等部の頃ももちろんそうだったけど、高等部になってからは尚更。当然、これからが本番って感じでね。
 それなのに出鼻をくじかれた気がして、腹立って色々調べたんだ。馬鹿だよな、お前。自分からターゲットになるように行動してるんだから。もっとも……俺に気付かれないようにやり過ごす方が大変かも知れないけど」

 学園の全生徒の名前と顔は一致してるんだよ、って言う。それだけでも驚いたのに、一年が終わる頃までにはさらに詳細なデータが頭の中に詰まっていくんだって。

「無理矢理でもがっちりとガードされた殻から引きずり出してやろうと思ってた。……ま、それが出来ただけでもいいとするか。さすがに代償は大きかったけどね」

 

 思わせぶりな視線がゆっくりと私を捉える。

 決して責め立てている訳ではない、ただすべてをあっさりと受け止めているみたいに静かな微笑み。

 

「正直言っちゃうとさ、俺。面と向かって『大嫌い』なんて言われたことなかったんだよな。さすがにあれは驚いたかも」




 

2004年11月12日更新

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