和歌と俳句

室生犀星

わらんべの洟もわかばを映しけり

をんあごの顔剃らせゐる若葉かな

塗り立てのペンキの塀や花ざくろ

しら芥子や施米の桝にほろと散る

岡あやめ訪ふひとはみな乙女つれ

にさんにちむすめあづかりあやめ咲く

絲捲きに絲まかれゐるあやめかな

芭蕉玉巻のぼる暑さかな

ひんがしに芭蕉の花の向きにけり

江漢の塚も見ゆるや茨の花

昼近き雨落着くや葱の花

杏子あまさうなひとはねむさうな

あんずあまさうな雑木の門がまへ

となり家の落ちけり小柴垣

昼顔に浅間砂原あはれなり

昼顔や海水あびに土手づたひ

夏深く山気歯にしむ小径かな

朝日さす町の埃や夏名残

秋待や径ゆきもどり日もすがら

秋近や落葉松うかぶ風呂の中

竹の幹秋近き日ざし辷りけり

あさがほや蔓に花なき秋どなり