和歌と俳句

室生犀星

つらら折れるころ向く机かな

木がらしや人家の絶えし畝の跡

栗うめて灰かぐはしや夜半の霜

竹の葉の垂れて動かぬ霜ぐもり

きざ柿のしぶのもどれる霜夜かな

わびすけにみぞれそそぎて幹白し

わびすけのくちびるとけて師走なる

枇杷の花母娘と住みてなまめきし

笹鳴の渡りすぎけり枇杷の花

庭石の苔を見に出る炬燵かな

茎漬や手もとくらがる土の塀

茎漬やさざんか明る納屋の前

塩鮭をねぶりても生きたきわれか

菊枯れて牡蠣捨ててある垣根かな

焼芋の固きをつつく火箸かな

ほほゑめばゑくぼこぼるる暖炉かな

地図をさし珈琲実る木をおしへけり

豆柿の熟れる北窓閉しけり

飛騨に向ふ軒みな深し冬がまへ

寒餅やむらさきふふむ豆のつや

寒餅や埃しづめるひびの中

侘び住むや垣つくろはぬ物の蔓

草の戸や蔦の葉枯れし日の移り

草枯や時無草のささみどり

けふよりぞ冬をかこへり池の鴨