鴨君足人香具山歌一首并短歌
鴨君足人が香具山の歌一首并せて短歌
天降付 天之芳来山 霞立 春尓至婆 松風尓 池浪立而 櫻花 木乃晩茂尓 奥邊波 鴨妻喚 邊津方尓 味村左和伎 百磯城之 大宮人乃 退出而 遊船尓波 梶棹毛 無而不楽毛 己具人奈四二
天降りつく 天の香具山 霞立つ 春に至れば 松風に 池浪立ちて 桜花 木の暗茂に 沖辺には 鴨妻呼ばひ 辺つへに あぢ群騒ぎ ももしきの 大宮人の 退り出て 遊ぶ船には 楫棹も 無くて寂しも 漕ぐ人なしに
反歌二首
人不榜有雲知之潜為鴦与高部共船上住
人漕がずあらくもしるし潜する鴛鴦とたかべと船の上に住む
何時間毛神左備■留鹿香山之鉾榲之本尓薜生左右二
いつの間も神さびけるか香具山の桙杉の本に苔生すまでに
或本歌云
天降就 神乃香山 打靡 春去来者 櫻花 木暗茂 松風丹 池浪飆 邊津遍者 阿遅村動 奥邊者 鴨妻喚 百式乃 大宮人乃 去出 榜来舟者 竿梶母 無而佐夫毛 榜与雖思
天降りつく 神の香具山 打ち靡く 春さり来れば 桜花 木の暗茂に 松風に 池浪立ち 辺つへには あぢ群騒ぎ 沖辺には 鴨妻呼ばひ ももしきの 大宮人の 罷り出て 漕ぎける船は 棹楫も 無くて寂しも 漕がむと思へど
古今案 遷都寧楽後怜舊作此歌歟
右は、今案ふるに、寧楽に遷都したる後に、旧を怜びてこの歌を作るか。