和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首

三津崎浪矣恐隠江乃舟公宣奴嶋尓

三津の崎波を恐み隠江の船なる君は野嶋にと宣る

珠藻刈敏馬乎過夏草之野嶋之埼尓舟近著奴

珠藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野嶋の崎に船近づきぬ

粟路之野嶋之前乃濱風尓妹之結紐吹返

淡路の野嶋の崎の濱風に妹が結びし紐吹き返す

荒栲藤江之浦尓鈴寸釣泉郎跡香将見旅去吾乎

荒栲の藤江の浦に鱸釣る海人とか見らむ旅行く我れを

稲日野毛去過勝尓思有者心戀敷加古能嶋所見

稲日野も行き過ぎかてに思へれば心恋しき加古の嶋見ゆ

留火之明大門尓入日哉榜将別家當不見

灯火の明石大門に入らむ日や漕ぎ別れなむ家のあたり見ず

天離夷之長道従戀来者自明門倭嶋所見

天離る鄙の長道恋ひ来れば明石の門より倭嶋見ゆ

飼飯海乃庭好有之苅薦乃乱出所見海人釣船

飼飯の海の庭よくあらし刈薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船

    一本云 
武庫乃海船尓波有之伊射里為流海部乃釣船浪上従所見

武庫の海船庭ならしいざりする海人の釣船波の上ゆ見ゆ