和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   弓削皇子遊吉野時御歌一首 
瀧上之三船乃山尓居雲乃常将有等和我不念久尓

滝の上の三船の山に居る雲の常にあらむと我が思はなくに

   春日王奉和歌一首 
王者千歳二麻佐武白雲毛三船乃山尓絶日安良米也

大君は千年に座さむ白雲も三船の山に絶ゆる日あらめや

   或本歌一首 
三吉野之御船乃山尓立雲之常将在跡我思莫苦二 
     右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出

み吉野の三船の山に立つ雲の常にあらむと我が思はなくに 
    右の一首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。

   長田王被遣筑紫渡水嶋之時歌二首

   長田王、筑紫に遣はさえて、水嶋に渡る時の歌二首

如聞真貴久奇母神左備居賀許礼能水嶋

聞きしごとまこと尊くくすしくも神さびをるかこれの水嶋

葦北乃野坂乃浦従船出為而水嶋尓将去浪立莫勤

芦北の野坂の浦ゆ船出して水嶋に行かむ波立つなゆめ

   石川大夫和歌一首 
奥浪邊波雖立和我世子我三船乃登麻里瀾立目八方

沖つ波辺波とも我が背子が御船の泊り波立ためやも

   又長田王作歌一首 
隼人乃薩麻乃迫門乎雲居奈須遠毛吾者今日見鶴鴨

隼人の薩摩の瀬戸を雲居なす遠くも我れは今日見つるかも