和歌と俳句

万葉集

巻第三

挽歌

<< 戻る | 次へ >>

     柿本朝臣人麻呂見香具山屍悲慟作歌一首
草枕 羈宿尓 誰嬬可 國忘有 家待真國

     柿本人麻呂 香具山の屍を見て 悲しびて作る歌一首
くさまくら たびの宿りに たがつまか 国忘れたる 家待たまくに

     田口廣麻呂死之時刑部垂麻呂作歌一首
百不足 八十隅坂尓 手向為者 過去人尓 盖相牟鴨

     田口廣麻呂が死にし時に 刑部垂麻呂が作る歌一首
ももたらず やそくまさかに 手向けせば 過ぎに人に けだしあはむかも

     土形娘子火葬泊瀬山時柿本朝臣人麻呂作歌一首
隠口能 泊瀬山之 山際尓 伊佐夜歴雲者 妹鴨有牟

     土形娘子を泊瀬の山に火葬る時に 柿本人麻呂が作る歌一首
こもりくの 泊瀬の山の 山のまに いさよふ雲は 妹にかもあらむ

     溺死出雲娘子火葬吉野時柿本朝臣人麻呂作歌二首
山際従 出雲兒等者 霧有哉 吉野山 嶺霏?

     溺れ死にし出雲娘子を吉野に火葬る時に 柿本人麻呂が作る歌二首
           山のまゆ 出雲の子らは 霧なれや 吉野の山の 嶺にたなびく

八雲刺 出雲子等 黒髪者 吉野川 奥名豆颯

八雲さす 出雲の子らが 黒髪は 吉野の川の おきになづさふ

<< 戻る | 次へ >>