和歌と俳句

拾遺和歌集

物名

すはうこけ すけみ
鴬のすはうごけども主もなし風にまかせていづちいぬらん

やまと すけみ
ふるみちに我やまどはむいにしへの野中の草はしげりあひにけり

いなみの すけみ
すみよしのをかの松かささしつれば雨はふるともいなみのはきし

くるすの すけみ
白浪のうちかくるすのかわかぬにわが袂こそおとらざりけれ

このしまにあまのまうてたりけるを見て すけみ
水もなく舟もかよはぬこのしまにいかでかあまのなまめかるらん

よとかは 元方
うゑていにし人もみなくに秋萩のたれ見よとかは花のさきけむ

よとかは 貫之
あしひきの山辺にをれば白雲のいかにせよとかはるる時なき

をかはのはし 業平
つくしよりここまでくれどつともなしたちのをかはのはしのみぞある

くまのくら よみ人しらず
身をすてて山に入りにし我なれはくまのくらはむこともおぼえず

いぬかひのみゆ よみ人しらず
鳥の子はまだ雛ながら立ちていぬかひの見ゆるはすもりなりけり

あらふねのみやしろ すけみ
茎も葉もみな緑なるふかせりはあらふねのみやしろく見ゆらん

なとりのこほり 重之
あだなりなとりのこほりにおりゐるは下よりとくる事はしらぬか

なとりのみゆ 兼盛
おぼつかな雲のかよひ路見てしがなとりのみゆけはあとはかもなし

さはこのみゆ よみ人しらず
あかずしてわかれし人の住む里はさはこのみゆる山のあなたか

つつみのたけ 紀輔時
かがり火の所さだめず見えつるは流れつつのみたけばなりけり

むろの木 高向草春
神なびのみむろのきしや崩るらん竜田の河の水のにごれる

きさの木 すけみ
いかりゐのいしをくくみてかみこしはきさのきにこそおとらざりけれ

はなかむし 仙慶法師
五月雨にならぬ限は郭公なにかはなかむしのぶばかりに

もも すけみ
心ざしふかき時にはそこのももかつきいでぬる物にぞありける

はしはみ よみ人しらず
おもかげにしばしば見ゆる君なれど恋しきことぞ時ぞともなき