宿ごとに都は春のはじめとてまつにぞきみの千代いはふなる
とぶひ野はまだ古年の雪間よりめぐむ若菜ぞはるいそぎける
春のきる袂ゆたかに立つかすみめぐみあまねき四方の山のは
野も山もおなじ雪とはまがへども春は木毎ににほふうめが枝
浪のよる柳の絲のうちはへていく千代ふべきやどとかは知る
おくあみの霞を結ぶはる風になみのかざしのはなぞさきそふ
山櫻花のしたひもときしあればさながらにほふ春のころもで
谷川の春もちしほの色そめて深き弥生の山吹の花
紫の雲のしるしのはななれば立つ日もおなじやどのふぢなみ
もろ人の袖もひとへにおしなべて夏こそ見ゆれけふきたりとて
新勅撰集
久方の桂にかくるあふひ草そらのひかりにいく世なるらむ
小山田のむろのはやわせとりあへずそよぐ稲葉のころやまつらむ
いつかとぞまちし沼江の菖蒲草けふこそながきためしにはひけ
ほととぎすおのがときはのもりのかげおなじさ月のこゑもかはらず
咲きまさるいやはつ花の日をへつつ籬にあまる大和なでしこ
たづねても夏にしられぬすみかかな杜のしたかぜ山の井の水
風わたる濱松が枝の手向け草なびくにつけて夏やすぎぬる
夏衣おりはへてほす河波をみそぎにそふるせぜのゆふしで