TopNovel赫い渓を往け・扉>白い約束・4




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「片岡さん、第二応接室にお茶の支度をお願い。十時丁度にふたりお出でになるから」
「この資料の二頁から七頁までの写しが二部欲しいんだ。片岡君、すぐ出来るかな?」 

 休み明けの役員フロアは、それまで小夜子が過ごした三日間とは全く違う場所のように思えた。窓から見える首都圏のビル街も靴底に感じる柔らかなカーペットラグの感触も変わりないのに、この窮屈な雰囲気はどうしたことだろう。
  しかしその理由についてゆっくり思いを巡らす間もなく、ひとつの仕事が終わればまたひとつ、ひとつやりかければまた声が掛かると言う感じだ。その合間にも電話が何度も鳴り、受け答えをして取り次ぐだけでも一仕事になる。急ぎの呼び出しに当事者が側にいないとなれば、別フロアまで探しに行くことになるのだ。
  急ぎの書類を社長室に届けた帰り道、次にどの仕事から始めたらいいかと頭の中を整頓する。前から歩いてくる人影をいくつも会釈して避けながら、そこでようやく変化の一因が分かった。

 ―― 今日はいつもよりも人の出入りが多いのだわ。

 週末を控えた金曜日というのもひとつの理由になるだろう。週末となればストップする生産ラインも増えるし、その一方で観光施設や各種催し物会場は人手が増えて大忙しになる。だが、それだけが理由とも思えない。

 小夜子は一度立ち止まって、自分の姿を窓ガラスに淡く映してみた。桜色のツーピースは襟の折り返しの部分に同色のレースが柔らかく縫いつけてある。どちらかというと「可愛らしい」デザインであったが、それがとても良く似合うと自分でも思った。しかも顔映りも良く、普段よりも生き生きとした肌色に見える。
  今日は皆が忙しくしているので、急にめかし込んだことをあれこれ詮索されなくて済んで良かったと思う。もちろんこのような些細な変化を普段から洗練されたデザインや着こなしに見慣れている都会の人々が気付くとも思えないが。通勤の電車の中でも何か言われたときの言い訳ばかりをいろいろ考えていたので、ちょっと拍子抜けしたほどである。

 一昨日の夜に佐々木氏の奥様と合流できたのは、結局七時を少し回ってからであった。外で軽く食事をしてからご自宅へと招き入れられる。その頃には当日のうちに帰宅するという願いが聞き入れられそうにないと言うことを悟っていた。
  佐々木家のクローゼットの広さとその収納されている衣装の多さと言ったら、小夜子の想像を遙かに越える膨大なものであった。元は子供部屋のひとつであったというその場所は、季節ごと種類ごとにきちんと整頓され、ちょっとしたブティックのしつらえである。そして突き当たりの一角に小夜子用にと奥様が取り分けた品がすでに揃っていた。

「主人にはね、どうしようもない道楽だと笑われてしまったのだけどね」

 息子をふたり育てた佐々木氏の妻は、ふたりの伴侶となる女性に贈ろうと相手が決まる前から気に入った衣類を少しずつ買い集めていた。しかしそれはどうしても彼女自身の気に入るものになってしまう。結局はふたりの息子の連れ合いのどちらともサイズや好みが一致せず、ほとんどがタンスの肥やしになってしまった。

「品物はとても良いのよ、だからとてももったいなくて。それでもずいぶんリサイクルショップに回したのだけど、特に気に入っていたものはどうしても手放せなかったの」

 このまま置いておいても無駄になるものだからと押し切られて、譲られた服や小物は衣装箱ふたつ分になってしまった。それでも春夏物だけに限ってもらったのである。翌日の昼前に佐々木氏本人の運転する車でそれを小夜子の自宅へと運んだが、そのときの家族の複雑そうな顔は忘れられない。

 ―― このお話を断らなかったときに、全てが始まっていたのだわ。

 ほんの数日の間に身につけるものから立ち振る舞いまで変化してくる娘のことを、両親が快く思っているはずはなかった。だけどまだしばらくはこの生活を続けていくしかない。本当に代わりの人材はいつ見つかるのだろう。

 他のことに気を取られていたお陰で、小夜子は幹彦氏との気まずい再会をどうにかすり抜けることが出来た。そうは言っても、彼が出勤して部屋に入ってきたときには少なからずの緊張が走ったのも事実である。

「おはよう、留守中は世話になったね。お陰様であちらもすっかり片付いた。今日からまた、よろしく頼むよ」

 しかし、どうしたことだろう。他の誰でもない彼自身が一昨日の夕べのことをすっかり忘れてしまっているような雰囲気なのである。入り口から一番近い場所にある小夜子の机の脇を通ったときも、さり気なく会釈を交わしただけであった。

 ―― もしかして、あれは全て夢だったの? そうよ、幹彦様に限ってあんなことあり得ないもの。でも……。

 それ以上思いを巡らすには、今日の日程がハード過ぎた。穏やかだったそれまでの数日が嘘のよう。次々に舞い込む用事や作業を片付けているうちに、謎めいた気分などいつか吹き飛んでいた。
  在室中は一番奥の場所が専務の定位置であるし、今日は朝からとにかく来客が多くて順番待ちが出るほどである。応接スペースなどでは到底間に合わず、専用のスペースを借りることになった。お顔を拝見することはおろか、きちんと把握していないと今社内のどちらにいらっしゃるのかさえ分からなくなってしまう。

 専務室のメンバーは誰もが確かに忙しい。だが、その中で一番誰が大変かと言えば、やはりボスである幹彦氏に他ならないのである。揺るぎない現状を目の当たりにして、小夜子ははっきりと思い知っていた。

 

◇◇◇


「……いいのよ、構わないわ。近くまで来たから寄っただけなの」

 専務室のドアの前まで戻ると、細く開けられた隙間からそんな声が漏れてきた。また新しい来客だろうか、会話の内容から察するに連絡なしの訪問なのだろう。慌てて中に入るのも不作法かとそっと覗けば、まるで真夏のひまわり畑のように鮮やかなドレスの背中が見えた。頭の上には白い帽子が乗っている。広いつばでも隠しきれない豊かな髪が背中にたっぷりと流れていた。

「私が来たことは忘れずにお伝えしてね。では、これで失礼するわ」

 その声が終わる前にドアが開いたので、小夜子は慌てて頭を下げる。華奢なデザインのハイヒールが深くカーペットに沈むのがはっきりと見えた。帽子と同色のため、濃い色の敷物との対比が鮮やかである。

「……あら」

 そのまま通り過ぎて行くのだとばかり思っていたのに足を止められ、ハッとして顔を上げてしまった。そこにあったのは、美術作品の如く飾られた美しい表情。たっぷりしたまつげは乱れのないカーブを描き、さらにくっきりとアイライン。唇を縁取るルージュにも一寸の乱れもない。夢の如く瞼を染めたアイシャドーが妖しく輝き、濃茶の瞳がすっと小夜子の姿を横切っていった。

 ほんの、一瞬の出来事。それなのに、このたとえようのない居心地の悪さは何だろう。

 そのままきびすを返して引き上げていく背中をついぼんやりと見送ってしまった。身体のラインをぴっちりと強調しながら、それでいて女性らしい柔らかさを表現しているデザイン。あれは大量生産のお仕着せでは出せない、オーダーメイドのなせる技だ。

「……やれやれ、やっと退散してくれたか」

 白い帽子がようやくエレベーターホールから消えたとき、背後から溜息混じりの声がした。おどけたその口調が誰のものかは振り向いて確認するまでもない。小夜子が向き直ると、やはりそこにいたのは三鷹沢室長。彼はドアの高さギリギリの身長を持て余すように、壁にもたれかかっていた。

「驚いたでしょう、片岡君も。まあこれもそう珍しいことじゃないから、早めに慣れた方がいいだろうね」

 忍び笑いを漏らしながらそう続けられても、小夜子には何のことなのかさっぱり分からない。この人には謎解きのような不思議な口調があり、一体何を伝えようとしているのかにわかには察することが出来ないことも多い。こういう場合はきちんとその真意を訊ねた方がいいのだろうか、もしくは知らぬ振りをして通り過ぎるべきなのだろうか。

「はあ……」

 多少間の抜けた受け答えになってしまったが、致し方ないだろう。何しろ、まだまだ任についたばかりで本当に分からないことだらけなのだ。とにかく与えられた用事を間違いなくこなしていくほかにはない。余計なことに気を取られていたら、足下までおぼつかなくなってしまう。

 しかし、部屋に一歩入ったところで再び驚かされることになる。入り口のすぐ右手に作られた応接スペースにはテーブルに乗りきれないほどの花かごと、包み紙だけで高級洋菓子店のそれと分かるこれまた一抱えほどの菓子箱が置かれていた。それだけではない。さらにその奥に押しやられるように別の洋菓子店の箱がふたつみっつ恨めしそうに覗いている。
  社長室に出掛ける前に確認したときにはこの場所には何もなかった。たった五分かそこらの間に一体何が起こったのだろうか。

「まあ、幹彦様が別件で来客中であったのが不幸中の幸いだろうね。本当にどこで嗅ぎつけるのやら、素晴らしい才能だと思うよ。毎度のことながら恐れ入るね」

 その声にデスクに向かっていた数人のメンバーがくすくすと笑いを漏らす。三鷹沢室長は何も小夜子ひとりに話しかけている訳ではなかったのだ。今ここに蓉子がいれば言葉だけでも彼をたしなめたかも知れないが、あいにく彼女は接客のために席を外している。役員フロアには共用の応接スペースがいくつもあり、今日はそのいくつかを専務室で占領するかたちになっていた。

「で、片岡君。ちょっと付き合ってもらえるかな?」

 その声に振り返ると、目の前に先ほどの花かごが差し出された。内側に置かれたオアシスに所狭しと活けられているのは見るからに値段の高そうな花ばかり。洋蘭の仲間のようなそれもいくつも顔を出していた。室長自らの手には菓子箱が三つ四つと重ねられている。

「僕たちはケーキ屋に転職するほど暇人じゃないしね、こういう貰い物は全部下の総務に持って行くことになっているんだ。あとはあっちで適当に振り分けてくれるから。……それにしても、今日は大量だなあ。しかも揃いも揃って『本日中にお召し上がり下さい』なんだから参るよ」

 部屋に残っているメンバーに声を掛けると、三鷹沢室長は小夜子の背中を押して外に出た。

 

◇◇◇


「……宜しいんですか、蓉子さんも席を外しているのに出て来ちゃって」

 多少の後ろめたさもあって、小夜子の声には刺々しさが伴っている。言葉を受けて、三鷹沢は大袈裟に首をすくめて見せた。

「いいじゃない、たまにはブレイクも必要だって。他のメンバーはみんな長いからね、それぞれが自分のペースで行けるんだけど、君はそうじゃないでしょう? 頑張っているのは認める、でもまだランチ前だって言うのに君はもう酸欠の金魚みたいになってるよ」

 その問いかけに、小夜子は返答することが出来なかった。こんな風にはっきりと事実を告げられることにも慣れていなかったし、実際自分がそれまでどんな風に過ごしていたかも分かっていなかったのである。

「大丈夫だって、そんなに見苦しいものではなかったよ。むしろ可愛らしくて目の保養だったくらいだ。でもあまり見とれていて、君がオーバーヒートしてしまうのも困るからね」

 言葉の端々から感じられる親しさは、長い時間を掛けて培われた信頼関係によく似ていると思った。この人も先日の幹彦氏と同じく自分を「佐々木営業部長」の身内と認識しているのだろう。いきなり飛び込んできた外部の人間でありながら、ここまで温かく受け入れてもらえる理由が他には考えられない。
  もちろん「甘やかされている」というのとは違う。だがスタートラインに立ったその時から、自分はとても恵まれた立場にいるのだ。

「す、すみません。ご心配お掛けして」

 背伸びをしすぎて転んでしまっては何にもならない。それは分かっていたはずなのに、やはり忙しすぎて周りが見えなくなっていたのだろうか。そのことを告げるために、室長はわざわざ自分を連れ出してくれたのだ。申し訳なくも有り難い限りである。

 本当に、今朝は出勤してきたそのときから半端じゃない忙しさだった。一番の下っ端なのだからと部屋の誰よりも早く到着するように心がけているのだが、簡単な拭き掃除も終わらないうちに一日が始まってしまったような気がする。皆、初めから分かっていたのだ。今日が特別な日であることを。

「いや、君が申し訳なく思うことはないよ。ただこの現状を事実として受け止めてくれればいいんだ」

 直通ではない方のエレベーターが混み合っているのか、いつになっても到着しない。とうとうふたりは諦めて階段を使うことになった。三十階まで降りれば、台数も増えるという。人気のないその場所は一面がガラス張りになっていて目映い光に満たされていた。

「ま、当然と言えば当然なんだよね。いくら専務室のメンバーがそれぞれの仕事を分担して取り組んでいるとは言っても、話を持ちかけてくる先方はやはり幹彦様ご本人と面会したがる。彼の心を掴めば全てが上手くいくとか考えているのかも知れないね。
  幹彦様が今のポストに就いてからは、社長以上に来客希望の問い合わせが多くなっているくらいだ。もちろんその全てを引き受けているわけではないけど、それでもこの始末だからね。なのに、さらに招かれざる客が押し寄せてくるんだからなあ……」

 三鷹沢の言う「招かれざる客」と言うのが、先ほどの女性客のような相手を示しているのは明らかだった。あのひまわり色のドレスの客の前にも似たような感じの来客は幾人もあったのである。正確には今の時間までですでに五人。そのほとんどが受け付けカウンターも通さずに直接役員フロア直通のエレベーターで上がってくる。

「……ま、正直に名乗れば追い返されるのは分かっているだろうからね。彼女たちにも幾らかの学習能力があるってことか。―― あ、この話は内密にね。僕の首が飛ぶと大変だから」

 

 後日仲間内の会話の端々から、小夜子は「招かれざる客」たちの正体を知ることになる。彼女たちは皆「幹彦様の親戚」を名乗り、それを盾に社内で大きな顔をしているらしい。パーティー会場などですれ違いざまに一瞬挨拶しただけの仲を大袈裟にして押しかけるので、皆とても迷惑しているとのこと。だが、彼女たちも幹彦氏の前では別人のように淑女の顔をみせるらしい。

「今の社長の奥様は噂によると旧華族の家柄とか? ま、いわゆるお嬢様があちこちにはびこっているってことだ。俺たちに言わせれば、時代錯誤も甚だしいってところだけどね」

 その場に居合わせた大竹は同世代の気安さもあったのだろう、歯に衣着せぬ本音をぽろりと口にした。

「君も気をつけた方がいいよ、何せ独身女性がこの部屋に配置されるのは初めてだって言うしね。もしも何か困ったことがあったら、すぐに教えてくれよ?」

 神妙な顔つきでそう言われても、小夜子にはどうしても品の悪い冗談のようにしか受け取れなかった。自分など、ただの時しのぎの人材なのに何を大袈裟に考えているのだろう。あのような別世界の女性たちに企業の歯車のひとつとして機能するしかない一社員が目に留まるはずもない。心配してくれるのは分かるが、それは取り越し苦労というものだ。

 

「―― あ、そうだ」

 戻りのエレベーターは運良くつかまり、ふたりはしばし箱の中の住人となった。とは言っても、ここは階段フロアと同じく全面ガラス張りで大都会の風景が一望できる贅沢さである。その壮大さにしばし見とれていると、三鷹沢室長が再び口を開いた。

「あのね、いきなり変なこと言うようだけど……僕、最初に君の名前を聞いてとても不思議な気がしたんだ。片岡って姓は、実はウチの宵子さん―― つまりマイ・ダーリンの旧姓と同じでね。珍しい名字じゃないし、どうでもいいかなとも思うけどちょっと呼びにくくてね。それが何となく引っかかっていたんだ」

 君を呼ぶたびにハニーのことを思い出すのも不謹慎だしね、とか言われたらこちらの方が赤くなってしまう。しかし小夜子の顔色など気にする素振りもなく、彼は続けた。

「それで……昨日、宵子さんのお母さんにお目に掛かったときにその話をしてね。そしたら、お母さんも『もしかしたら』とか仰るんだ。君の家が埼玉で町工場をしてるって言ったら、遠い親戚に当たるかも知れないって」

 じっと顔を覗き込まれて、何かと思う。慌てて瞬きをしたら、彼はごめんごめんと苦笑いした。

「宵子さんと君が似てるところがあるのかなとか思ったけど、全然だね。聞いたことない? 宵子さんの実家って世田谷なんだ」

 いきなりそんな話をされても困ってしまう。最初に三鷹沢が言ったように「片岡」という姓はそれほど珍しいものではないのだ。それに自分の家は分家筋で、本家のことはほとんど知らない。
  片岡の本家は戦前はかなりの財産家で手広く商売をしていたという。小夜子の父の町工場が時代の波に押されて苦境に立たされたときもどうにか保ちこたえることが出来たのは、本家の助けがあってこそと聞いている。あのとき無利子で融資を受けることが出来なかったら、他の同業者と同じように廃業に追い込まれ一家は路頭に迷っていただろうと。
  そのこともあり、父は本家には並々ならぬ恩を感じていた。だから今でも盆暮れの集まりには必ず家族を伴って顔を出している。小夜子も幼い頃には幾度となく連れられて出掛けたが、あまり居心地の良い場所とも言えず、この頃ではすっかり疎遠になっていた。

「ああ、いいんだ。そんなことは」

 こちらが黙っていたからだろう、三鷹沢は話を早々に引き上げることにしたらしい。彼はおどけた笑顔で、一瞬小夜子の目の前に浮かんだ過去の風景を一掃した。

「つまり、僕は君のことを『片岡君』と呼ぶのにはとても抵抗があるってことを説明したかったんだ。ねえ、もしも良かったら『小夜ちゃん』とか呼んでもいいかな? 佐々木営業部長みたいにさ」

 軽いベル音が響いて、エレベーターのドアが開いた。

 

◇◇◇


「いくらなんでも、成人した女性に『ちゃん』付けはないでしょう」

 丁度ホールに居合わせた蓉子の提案もあり、幾度かのやりとりの後に最終的に「小夜子君」という呼び名でまとまる。それでも気恥ずかしさには変わりなく、小夜子の頬は知らないうちに赤くなってしまった。さらに数日後には専務室のメンバーのほとんどからそう呼ばれることになる。
  最初は小さな出来事だと思っていた。だが、ファーストネームで繰り返し呼ばれていると自分の中に説明の出来ない不思議な感情が生まれてくるのも見過ごせない。何と言ったらいいのだろうか……、そう、まるで自分自身がその空間の中できちんとひとつのパーツになってしまったようなそんな気持ち。

 ―― 違うのに。私はそれほど重要な存在じゃなかったはずだわ。

 心の中に、再び警笛が鳴り渡る。だがそれを止める術も事態を好転させる術も、そのどちらも小夜子には分からなかった。

 

つづく (080216)

 

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