和歌と俳句

万葉集

巻第二

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挽歌

後岡本宮御宇天皇代 天豊財重日足姫天皇譲位後語即後岡本宮

後の岡本宮に天の下知らしめす天皇の代 天豊財重日足姫天皇 譲位の後、後の岡本宮に即きたまふ

   有間皇子自傷結松枝歌二首

   有馬皇子、自ら傷みて松が枝を結ぶ歌二首

磐白乃濱松之枝乎引結真幸有者亦還見武

磐代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまたかへりみむ

家有者笥尓盛飯乎草枕旅尓之有者椎之葉尓盛

家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る

   長忌寸意吉麻呂見結松枝哀咽歌二首

   長忌寸意吉麻呂、結び松を見て哀咽しぶる歌二首

磐代乃崖之松枝将結人者反而復将見鴨

磐代の崖の松が枝結びけむ人はかへりてまた見けむかも

磐代之野中尓立有結松情毛不解古所念

磐代の野中に立てる結び松心も解けず古思ほゆ

   山上臣憶良和歌一首 
鳥翔成有我欲比管見良目杼母人社不知松者知良武

翼なすあり通ひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ

   大實元年辛丑幸于紀伊國時見結松歌一首 柿本人麻呂歌集中出也 
後将見跡君之結有磐代乃子松之宇礼乎又将見香聞

   大實元年辛丑に、紀伊國に幸す時に、結び松を見る歌一首 柿本人麻呂が歌集の中に出づ
後見むと君が結べる磐代の小松がうれをまた見けむかも