長忌寸意吉麻呂歌一首
苦毛零来雨可神之埼狭野乃渡尓家裳不有国
苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに
柿本朝臣人麻呂歌一首
淡海乃海夕浪千鳥汝鳴者情毛思努尓古所念
近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ
志貴皇子御歌一首
牟佐〃婢波木末求跡足日木乃山能佐都雄尓相尓来鴨
むささびは木末求むとあしひきの山のさつ男にあひにけるかも
長屋王故郷歌一首
吾背子我古家乃里之明日香庭乳鳥鳴成嬬待不得而
我が背子が古家の里の明日香には千鳥鳴くなり妻待ちかねて
阿倍女郎屋部坂歌一首
人不見者我袖用手将隠尓所焼乍可将有不服而来〃
阿倍女郎が屋部坂の歌一首
人見ずは我が袖もちて隠さむを焼けつつからむ着ずて来にけり