和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   長忌寸意吉麻呂歌一首 
苦毛零来雨可神之埼狭野乃渡尓家裳不有国

苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに

   柿本朝臣人麻呂歌一首 
淡海乃海夕浪千鳥汝鳴者情毛思努尓古所念

近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ

   志貴皇子御歌一首 
牟佐〃婢波木末求跡足日木乃山能佐都雄尓相尓来鴨

むささびは木末求むとあしひきの山のさつ男にあひにけるかも

   長屋王故郷歌一首 
吾背子我古家乃里之明日香庭乳鳥鳴成嬬待不得而

我が背子が古家の里の明日香には千鳥鳴くなり妻待ちかねて

   阿倍女郎屋部坂歌一首 
人不見者我袖用手将隠尓所焼乍可将有不服而来〃

   阿倍女郎が屋部坂の歌一首 
人見ずは我が袖もちて隠さむを焼けつつからむ着ずて来にけり