和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   山部宿禰赤人至伊予温泉作歌一首并短歌

   山部宿禰赤人、伊予の温泉に至りて作る歌一首并せて短歌

皇神祖之 神乃御言乃 敷坐 国之尽  湯者霜 左波尓雖在 嶋山之 宜国跡  極此疑 伊予能高嶺乃 射狭庭乃 崗尓立而  歌思 辞思為師  三湯之上乃 樹村乎見者 臣木毛 生継尓家里  鳴鳥之 音毛不更 遐代尓 神左備将往 行幸処

すめろきの 神のみことの 敷きいます 国ことごと  湯はしも さはにあれども 嶋山の 宜しき国と  こごしかも 伊予の高嶺の 射狭庭の 崗に立たして  歌思ひ 辞思ほしし  み湯の上の 木群を見れば 臣の木も 生ひ継ぎにけり  鳴く鳥の 声も変らず 遠き代に 神さびゆかむ 幸しところ

   反歌 
百式紀乃大宮人之飽田津尓船乗将為年之不知久

ももしきの大宮人の熟田津に船乗りしけむ年の知らなく

   登神岳 山部宿禰宜赤人作歌一首并短歌

   神岳に登りて、山部宿禰赤人が作る歌一首并せて短歌

三諸乃 神名備山尓 五百杖刺 繁生有  都賀乃樹乃 彌継嗣尓 玉葛 絶事無  在管裳 不止将通 明日香能 舊都師者  山高三 河登保志呂之 春日者 山四見容之  秋夜者 河四清之 旦雲二 多頭羽乱  夕霧丹 河津者驟 毎見 哭耳所泣  古思者

みもろの 神なび山に 五百杖さし 繁に生ひたる  栂の木の いや継ぎ継ぎに 玉葛 絶ゆる事なく  ありつつも やまず通はむ 明日香の 古き都は  山高み 河とほしろし 春の日は 山し見よし  秋の夜は 河しさやけし 朝雲に 鶴は乱る  夕霧に かはづは騒ぐ 見るごとに 音のみに泣かゆ  いにしへ思へば

   反歌 
明日香河川余藤不去立霧乃念応過孤悲尓不有国

明日香川川淀さらず立つ霧の思ひ過ぐべき恋にあらなくに