和歌と俳句

拾遺和歌集

雑歌

藤原後生
昔わが折りし桂のかひもなし月の林のめしにいらねは

菅原の大臣の母
久方の月の桂もをるばかり家の風をもふかせてしがな

人麿
月草に衣はすらんあさつゆにぬれてののちはうつろひぬとも

人麿
ちちわくに人はいふともおりてきむわがはた物にしろきあさぎぬ

人麿
久方のあめにはきぬをあやしくもわが衣手のひる時もなき

人麿
白浪はたてど衣にかさならず明石も須磨もおのがうらうら

人麿
ゆふされば衣手さむしわぎもこがときあらひころも行きてはやきむ

贈太政大臣道真
あまつほし道もやどりもありながらそらにうきてもおもほゆるかな

贈太政大臣道真
ながれ木も三とせ有りてはあひ見てん世のうき事ぞかへらざりける

平定文
うき世にはかとさせりとも見えなくになとかわが身のいてかてにする

伊勢
木にも生ひず羽も並べでなにしかも浪路へだてて君を聞くらん

人麿
さざなみやあふみの宮は名のみして霞たなびき宮きもりなし

能宣
暁のねざめの千鳥たがためか佐保の河原にをちかへりなく

能宣
あさからぬちぎりむすべる心葉はたむけの神ぞ知るべかりける

元輔
三輪の山しるしの杉は有りながらをしへし人はなくていくよぞ

肥前
おきつしま雲井の岸を行きかへりふみかよはさむまぼろしもがな

人麿
そらの海に雲の浪たち月の舟里の林にこきかくる見ゆ

人麿
河のせのうづまく見れば玉もかるちりみだれたるかはの舟かも

人麿
なる神のおとにのみきくまきもくの檜原の山をけふ見つるかな

人麿
いにしへに有りけむ人もわかことや三輪の檜原にかざし折りけん