ぬばだまの夜は更けぬらし蟲の音も我衣手もうたて露けき
あはれさは何時はあれども秋の夜の蟲の鳴く音に八千草の花
いつはとは時はあれども淋しさは蟲の鳴く音に野べの草花
あまつたふ日は夕べなり蟲は鳴くいざ宿からん君が庵に
夕されば蟲の音ききに来ませ君秋野の野らと名のる我が宿
心あらば蟲の音聞きに来ませ君秋野のかどを名のる我が宿
今よりはつぎて夜寒になりぬらしつづれさせてふ蟲の聲する
肌寒み秋も暮れぬと思ふかな蟲の音もかる時雨する夜は
水やくまん薪やこらん菜やつまん朝の時雨の降らぬその間に
柴やこらん清水や汲まん菜やつまん時雨の雨の降らぬまぎれに
月よみの光を待ちてかへりませ山路は栗のいがの多きに
月よみの光をまちてかへりませ君が家路は遠からなくに
秋萩の枝もたををにをく露を消たずにあれや見ん人のため
秋の野の萩の初花咲きにけり尾の上の鹿の聲まちがてに
夕風になびくや園の萩が花なほも今宵の月にかざさん
萩が花今盛なりひさがたの雨は降るとも散らまくはゆめ
散りぬらば惜しくもあるか萩の花今宵の月にかざして行かん
秋風に散りみだれたる萩の花はらはば惜しきものにぞありける
たまぼこの道まどふまで秋萩は散りにけるかも行く人なしに
いその上ふる川のべの萩の花今宵の雨にうつろひぬべし
秋萩の花咲く頃は来て見ませ命またくば共にかざさん
秋萩の花のさかりも過ぎにけり契りしこともまだとけなくに
白露に咲きみだれたる萩が花錦を織れる心地こそすれ
萩の花咲くらん秋を遠みとて来ませる君が心うれしき