和歌と俳句

良寛

音にのみ鳴かぬ夜はなし鈴蟲のありし昔の秋を思ひて

秋の野に誰れ聞けとてかよもすがら聲降り立てて鈴蟲の鳴く

秋風の夜毎に寒くなるなべに枯野に残る鈴蟲の聲

我が待ちし秋は来ぬらし今宵しもいとひき蟲の鳴き初めにけり

我が待ちし秋は来にけり高砂の尾の上にひびく日ぐらしの聲

我が待ちし秋は来ぬらしこの夕べ草むら毎に蟲の聲する

ともしびのきえていづこに行くやらん草むら毎に蟲のこゑする

我が庵は君が裏畑夕さればまがきのすだく蟲のこゑごゑ

この夕べ秋は来ぬらし我が宿の草もまがきに蟲のなくなる

夢ならばさめても見まし萩の花今日の一日は散らずやあらなん

我が園に咲きみだれたる萩の花朝な夕なにうつろひにけり

我が宿の秋萩の花咲きにけり尾の上の鹿は今か鳴くらん

おく露に心はなきを紅葉ばのうすきも濃きもおのがまにまに

緑なる一つ若葉と春は見し秋はいろいろにもみぢけるかも

紅葉ばは散りはするとも谷川に影だに残せ秋のかたみに

あしびきの山のたをりの紅葉ばを手折りてぞこし雨の晴れ間に

秋山の我が越え来ればたまぼこの道も照るまで紅葉しにけり

おく山の紅葉ふみわけこと更に来ませる君をいかにとかせん

我が宿をたづねて来ませあしびきの山の紅葉を手折りがてらに

我が園のかたへの紅葉誰れ待つと色さへ染まず霜はおけども