澄みのぼる 心や空に たちそひて 今宵の月の 影となるらむ
天の川 やそのうらわに 雲きえて 凪ぎたる夜半の 月を見るかな
月きよみ 軒端にすがく ささがにの 糸のみだれの 数もかくれず
千載集・雑歌
筏おろす 清滝川に 澄む月は 棹にさはらぬ 氷なりけり
おのがため あくるにもあらぬ あまのとに 急ぎな入りそ 秋の夜の月
見る人も なからむほかの 月影は ながむる宿に そへて照らなむ
月きよみ 蓬がそまの 下はれて ねやもあらはに なくきりぎりす
空はれて 月すむ夜半は 越の海の 浪に消えせぬ 雪ぞふりしく
月ゆゑに 惜しむと待つと 山の端を いとふ心ぞ いづれまされり
風越の 雲ふきはらふ 峰にてぞ 月をば昼の ものと知りぬる
みそらゆく 月をば軒に やどしおきて いづち心の あくがれぬらむ
むら雲を 宵より風に 払はせて たちいづる月の 影ぞさやけき
秋風の 露ふきむすぶ 竹の葉に 清くも澄める 夜半の月かな
与謝の海の なみまにやどる 月みれば あまのかはべに われや来ぬらむ
千鳥なく ゐなのみなとに 風さえて 波間にやどる 有明の月
秋くれば 軒端の月は さそはれて うたたねながら あかしつるかな
山の端に ふかく入りぬる 月影は よをうきぐもに すみやわびぬる
このよをば 月ゆゑにこそ 惜しみつれ しばしぞ暗き 闇にまどはじ
いづるより 木の葉隠れの ゆふつくよ かくてやつひに 雲に消えなむ