ちはやふる あそのみおきに 澄む月は 誰がたむけたる 鏡なるらむ
さらしなも みそらやはれむ 池水に やどれる月の 影さへは見し
山たかみ はるかに見れば すゑの松 月のなみさへ 越ゆるなりけり
はしりゐの 水には影の やどれども たちこそなづめ 望月の駒
なにたてる 月をば軒に もちながら 心にかかる きみが宿かな
さよふけて 虫ぞわぶなる わがごとく 月すむままに ものやかなしき
なく虫の こゑきくよりも さよふかき 月みるをりぞ 秋はかなしき
月にこそ 秋のおもひは まさりけれ くらぶの山に われやすままし
隈しなき 月ばかりにて 池水に 入る山の端も うつらざりせば
ゆくみちに けふはちがへど 初雁の わがみやこへと きくぞうれしき
越の海の そこにしづめる たまづさを はつかりがねぞ 空によむなる
ふけゆけば よさむになるを こころなく ころもかりがね なきて過ぐなり
千載集・秋
夜をこめて 明石の瀬戸を 漕ぎ出れば はるかに送る さを鹿のこゑ
大江山 鹿のねとほく きこゆなり 生野のほかに 妻をこふらむ
霧がくれ 野島が崎に なく鹿は いづれのかたの 妻をこふらむ
くれてゆく 秋のこずゑは さびしきに 松吹く風ぞ 音にかはらぬ
千載集・秋
よそにだに身にしむ暮の鹿の音をいかなる妻かつれなかるらん
千載集・秋
けふ見れば嵐の山は大堰川もみぢ吹きおろす名にこそありけれ