『古事記のものがたり』・本のできるまで
その10

「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記その10

三階にホームステイ?


みなさんは、一冊の本を自費出版するのに一体どれぐらいお金がかかると思いますか?

普通、本を出版社から出版する場合三つのパターンに分類することができるのです。
1、 全額を出版社が負担するケース。
2、 著者と出版社が費用を半分ずつ出し合って出版する。
3、 著者が全額を負担して出版する。

本のページ数や装丁、発行部数によって金額は異なるが、一般的に一冊の本を出版するには自動車一台分(200万円〜300万円以上)は覚悟しなくてはならない。
全国ネットの流通を持っている大手出版社から出版する場合は、一応日本中の書店に本が流通するという建前になっている。これはあくまで建前なので、実際は各書店からの注文がなければ店頭に本は並ばないのが実情なのだ。

たまたま運良く新刊コーナーに並んだとしても、毎日毎日数十冊の新刊本が出るので、競争がたいへん激しく、一週間で一冊も売れなければたちまち返品されてはかなく店頭から消えてしまう。

一方、自費出版の場合はすべての費用を自分で負担しなければならない。もちろん一般書店への流通販路もないので人目にもふれないし、友人や知人、家族や親戚に頭を下げて頼み歩き、義理で買ってもらったあとは在庫の山となり埃をかぶったままで終わりというケースがほとんどだ。

みどりさんはのんきに自費出版、自費出版と言って浮かれれているけれど、自動車一台分もの大金なんて! 今のぼくたちには到底手の届きそうにない金額なのだ。一体その金をどこから捻出するつもりなのだろう? 

出版費用のことを考えるとぼくは目の前が真っ暗になる。ある日思い切ってみどりさんにどうするつもりなのかと問い詰めたところ、彼女はいとも簡単にこう言った。

「みんなに頼んで何冊かあらかじめ購読予約してもらって、先にお金を集めたらいいやんか!」

これがいつもノーテンキで行き当たりばったりのヒラメキだけで生きている彼女流の考えなのだ。しかし、友人の少ないぼくは本当にそんな奇特な人が何人もいるのだろうかと、不安で不安で仕方なかった。また、はげが出来るぅぅ。

行動派のみどりさんは、いつものようにさっそくあちらこちらの友人に電話をかけまくって、伊勢神宮会館の館長さんが推薦文を書いてくださることになった話や、緑色の太陽を見たのできっとアマテラスさまが応援してくれて奇跡がおこるに違いないなんて訳のわからない話をごちゃごちゃにしながら次々に何人かの購読予約者を取り付けていった。

こんなときの彼女のパワーには脱帽する。まるでブルドーザーかパワーショベルのように一気に物事をはこんでいくのだ。結局、以前、手作り本を予約してくれた友人も含めて、瞬く間に200冊ほどの購読注文をとりつけてしまった。

二人で始めた編集企画会社サン・グリーンには、記念誌や個人の自分史などを編集企画した利益も少し蓄えてあったのだが、「古事記のものがたり」を出版するにはまだまだ足りない。

定価を一冊1500円にしようと思っていたので一冊単価を抑えなくてはならない、そのためには初版3000冊は必要となる計算だ。

そこで彼女は経費を節約するために、僕にマンションを出てみどりさんの自宅の三階に引っ越してくるようにと提案した。

確かに彼女の家は三階建てで、娘さんが昨年結婚したばかりなので部屋が空いていた。これまでも原稿作成が深夜になったりしたときは何度か泊り込みで仕事をしてきた。しかし一階にはみどりさんのおかあさんが住んでいるし、東京赴任中とはいえ息子さんもいる。

気楽な一人暮らしに慣れていたぼくは、いろいろ考えて返事に困ってしまった。しかし、出版費用のことを考えると背に腹は変えられない。

ぼくがこうしてぐずぐず悩んでいる間にみどりさんは、さっさとおかあさんや娘さんにも話をつけて了解をとりつけてしまった。おまけに引越し費用ももったいないので、仲間の何人かをボランティアで頼んで格安でトラックを借りてきて、あれよあれよという間にぼくはみどりさんの家の三階に居候の身(みどりさんはホームステイと言いなさいというのだが?)となってしまったのだ。トホホホホ…。

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