『古事記のものがたり』・本のできるまで
その4

「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記」その4

謎のUFO

インターネットで連載した分は、文字の制限なんかがあってあらすじだけになってしまったところも多い。本にするなら足りないところを書き直し、割愛した部分を放り込み、登場人物の神さまたちにたっぷり血と骨と魂をそそいで、いきいきと躍動させたい。もちろん原文から離れ過ぎないように十分注意しなければいけない。

連載中は多少の意見の違いがあっても締め切りがあるので、二人で折り合いながら原稿を書き進めた。しかし、今回はその制約がないので、お互いに納得するまで充分に意見を戦わせることができた。つまり簡単に言えば大喧嘩をしたのだ。

みどりさんはこうといったらなかなか譲らない。解釈の違いで幾度となくもめて、深夜になっても話しがつかない「そんな風に書いたらあかん!」「それやったら一人で書いたら! ぼくはもう降りる」などとしょっちゅう大声で言い合った。そしてしばらくのあいだ口を利かない。

だってみどりさんはこんなことを言うのだ。タケミカヅチという神さまが天界から下界へ降りてくるときに、天の鳥船という船に乗って降りてくるのだけれど、それをみどりさんは、「UFO」だと言い張る。「やっぱり古事記の時代から、地球に宇宙人が来てた証拠や」と…。ここはUFOで来たと書くと言い出して聞かないのだ。

たしかに原文はいたるところに小型のUFOのようなものに乗ってくる小さな神さまがいたり、光ながら海の上を歩いて登場する神さまが出てくるけれど、なんの脈絡もなくとつぜん宇宙人の話にしようだなんて(@_@)あんまりだ。
これでは古事記の原文からとおく離れてしまう。この件はなんとかみどりさんをなだめすかしてあきらめさせた。(いまだに彼女はあれは円盤にのった宇宙人だと信じ込んでいる)

そのかわり、あとがきの前に、どうしても「君が代」の解釈を入れるといって聞かない。
そのころ「君が代」を公立の小学校や中学で卒業式に歌うことがことが義務付けられて、その問題で苦しんだ校長先生が自殺するという事件があった。

ぼくは今の時期にそれを入れたら、きっと各方面から問題になるからやばいといって止めたけれど、ここは命を張っても自分の考えを入れるといって聞かない。彼女は君が代は子孫繁栄を願ったイワナガ姫の歌だ。(早く言えばセックス奨励の歌だというのだ)。ここは本文とは関係ないところなので、しかたなくセックス奨励の部分はカットして子孫繁栄の意味を強調して書き直して載せることにぼくは妥協した。

こんな風にして、いろんなことがありながらも、3ヶ月ほどかかってようやく本にする原稿は完成した。A4の用紙にコピーした原稿の厚みをながめると、ネットで流していたものと比べて5倍ほど分厚くなっていた。話の内容は古事記、神代の巻き32話となった。

その間にイラストも何枚か書き直してもらい、出来あがった32のイラストを文章に挟み込んた。それから知り合いの会社の社長さんに事情を話し、格安でコピー機を借りた。
こうして見本用の原稿が15部完成した。
さて、あとは出版社に頼んで本にするだけだ。

みどりさんの失業手当も切れてしまったし、貯金の残高も残り少ない。ぎりぎりの線上でようやく本がどこか大手の会社から世に出るなんてすごいタイミングだとか。これで夢の印税生活ができるなんて舞い上がりながら二人で狸の皮算用をしていた。

二人で梅田の書店に出かけ、歴史の棚にある本の、出版社の住所を20社ほど書き写した。もちろん大手の出版社ばかり。

次回へつづ


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