『古事記のものがたり』・本のできるまで
その18

「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記その18


ついに本が家に届いた!

西暦1999年10月9日。
平成11年10月9日。
土曜日。
新月。
この日はぼくたちにとって記念すべき日となった。

午前11時。
ピン〜ポ〜ン! 玄関のインターホンが鳴った。
「わん、わん、わん」。飼い犬のダニーが吠えた。
来た!
ぼくは急いで階段を下り、玄関のドアを開けた。みどりさんもぼくの後から飛び出してきた。二人ともさっきから時間を気にしてソワソワしていた。ようやく待ちに待ったぼくたちの本が家に届いたのだ。

「ワン。ワン」
門の前には営業のS君が庭に放し飼いしているダニーに向かって吠えていた。その後ろに4トントラックが道幅いっぱいにデーンと止まっている。ぼくはその大きなトラックを見て目が点になった。家の前の道路が狭いこともあるだろうが、トラックがとてつもなく大きく見えたのだ。

「えっ。すごいでかい車やね。」とぼく。
「ええ、配車が間に合わなくて。少し大きいですけれど、このぐらいでないと3000冊入らないですよ。」とS君。
「キャー。」と大騒ぎするみどりさん。
「わん。わん。わん」。ダニーが尻尾を振りながらじゃれついてくる。

ぼくはこのとき勘違いをしていた。
この車がこのまま家の中に入るというか、この4トン車いっぱいに本が積荷として乗っかっているんだと思ってしまったのだ。それぐらい家の前に止まった車の大きさは迫力があった。

「わんわんわん」

とにかく荷台の中を覗いてみた。すると中は案外空いていて、車の荷台の半分ぐらいのスペースにダンボール箱が積み上げられていた。具体的に説明すると、グランドピアノが三台分ぐらい。

それを見て最初の驚きよりは幾分かはましになったものの、やはりすごい量であるということには変わらない。ある程度の量は覚悟していたが、実際に目の前に来た3000冊の本の山を始めて目にして、ぼくたちは腰を抜かすほど驚いた。

「家の床が抜けてしまいそうやね」
みどりさんが思わずそう言った。S君はそれを聞いて笑っていた。が、ぼくの頭の中では本当に床が抜けていく光景がリアルに浮かんだ。

「わん。わん。」

とにかく荷物を家に運び入れないといけないと思った瞬間、トラックの後ろで、プップッーというクラクションの音が聞こえた。トラックが道を塞いでいたので、入ってきた車が通れないのだ。ぼくは急いでその車のところへ行き事情を丁寧に話して迂回してもらうように頼みこんだ。快く車はバックして角を曲がって行ってくれた。いい人でよかった。まだまだ世の中捨てたものじゃない。

「わん。わん。わん」

さあ、今のうちに急いで運び入れよう。メンバーは、ぼく、S君、運送屋さんの三人と、紐に繋いだダニーを連れて廻りをウロウロするだけのみどりさん。ぼくはこのときみどりさんが邪魔をしなければいいなとふと思ったのだがいちおう黙っていた。

本は、30冊ずつ一つのダンボール箱に収まっていた。一箱の重さはだいたい12キロぐらい。それが100ケースあった。

運送屋さんがてきぱきと慣れた手つきで荷をほどき、運び出しやすいようにトラックの一番後ろに箱を移動させる。それをぼくとS君が庭の中に運び入れ玄関に積んでいった。玄関は見る見るダンボール箱で一杯になった。靴を脱ぐ場所もないほど箱があふれていった。

みどりさんは一応女性なので12キロの箱を簡単には持つことが出来ない。見ているだけでは気が引けたのか、ダニーを繋いでから何箱か運んでくれたが、いかにもフラフラと頼りなく、逆にぼくたちのペースを乱すので邪魔をしないようにと頼んで辞めてもらうことにした。(やっぱりね)

それでも気になるのか、しばらくウロウロと様子を見ていたが、やがて「お昼の弁当を買ってくるね」と言って出かけてしまった。そのほうが静かでおまけに仕事がはかどるというものだ。

車の荷台から玄関までは二人で運んでいるので、一人が約50ケース運ぶ計算だ。運ぶ距離は短くても、50回も往復しているとさすがにしんどくのどが渇いて痛くなってくる。それに10月といってもまだ残暑が厳しかったので汗だらけで、シャツが身体にペタペタとくっついて気持ちが悪い。

最初は上着なんか着ていて、そのうえネクタイまでしていたS君もさすがに全部を脱ぎ払った。顔には玉になった汗が噴出しかなり辛そうだ。考えてみればぼくもS君も社会人になってからは力仕事をしていない。体がなまっていることもあってとてもしんどい。

S君は、本当はこのような荷物運びをしなくていいのだけれど、ぼくが「お願いだからだれか手伝って」と言って無理に都合をつけて来てもらったのだ。本来ならこのような時間があれば他の得意先を回っている優秀な営業マンの次長さんなのだ。本当にこのS君には今回何から何までお世話になっている。

ぼくはちょっと休憩したいなとも思ったけれど、運送屋さんはトラックの奥に入り込んでは次々にダンボール箱を出してくる。さすがにタフだ。ぼくたちがちょっとペースが遅くなると荷がどんどん積みあがっていく。

「わんわん」

ついに玄関に箱を置くスペースがなくなり本の入ったダンボール箱が庭にはみ出してきた。トラックの中を覗き込むとあと少しだった。数えると残りは13ケース。あと7回の往復で終了だ。さすがにぼくは バテバテで運ぶたびに残りの箱の数をかぞえてしまう。マラソンをしているときに、あの電柱まで、あの角までといって走る心境に似ているような気がした。

結局、車からすべての荷を降ろすのに20分ほどの時間が経過していた。その間休みなく二人で荷物を持っては降ろし、持っては降ろしの繰り返しをすることはとても辛いことだった。がとにかく3000冊すべて運び終えた。(*_*)

いつのまにか帰ってきていたみどりさんが気を利かせて差し出してくれた冷たい麦茶をごくごくと一気に飲みほした。とたんに汗がわっと噴出してきた。みどりさんが皆に、「ありがとう!ご苦労さん、ごくろうさんと」ねぎらいの声をかけてくれた。

女の人の役目はこんなときに発揮されるのかもしれない。とにかくヘトヘトになってのどがカラカラだったぼくたちは麦茶を飲んでひと息ついて、みどりさんのねぎらいの言葉を聞いてニコニコしていた。

汗をかいたからだがひんやりと涼しくなった。一息ついたところで、本の数の確認をして納品書にサイン。運送屋さんはそれを済ますとすっと帰っていった。

そのとき、残ったぼくたち二人に向かって、みどりさんはこう言った。
「玄関がこのままだとおばあちゃんに叱られるから、疲れているときにこんなことを言うのもなんやけど、一息ついたら本を全部二階に上げてね。」と。
なんて女だ! と内心ぼくは思った。
「わん」

ところで、届いた本を玄関まで運ぶだけなのに、「何でこんなに話が長いのだ」と思ってらっしゃる方がかなりいると思いますが、ぼくは本当に疲れてしまったのでとりあえずここらで休憩させて頂きます。つづきはすぐにアップしますね。乞うご期待!


  ダニー

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