「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記その19



ついに本が家に届いた! つづき

さて、ひと息ついたので続きを書きますね。

ぼくは玄関先からあふれ出ている箱の山をみてウンザリした。考えてみれば、玄関にダンボール箱が山積みになっているのをそのままにしておく家がどこにあろうか。そんなことしようものなら、一階に住んでいるみどりさんのお母さんが黙っているわけはない。「なんですか! これは。早く片付けなさい、ご近所にみっともない」という声が聞こえてくるようだ。

皆さんすでにご存知だと思うけれど、ぽくはホームステイ(?)の身なので非常に肩身が狭いのだ。それに、2Fと3Fがサン・グリーンの自宅兼事務所になっているのだから持って上がらないと仕方がない。ぼくはもう一度玄関に積みあがっているダンボール箱の山を見上げた。さっきよりもはるかに重労働になることは確かだ。なにしろグランドピアノ三台分もあるのだから。

それにいくら眺めていても、箱の山が魔法のようにフワフワと浮かびあがって2Fへと移動してくれるわけでもない。えいっ! ぼくは観念して重い腰を持ち上げた。S君も乗りかかった船と観念したのか、一緒に立ち上がってくれた。

実際、3000冊の本を2Fへ上げるのは心臓が飛び出ると言っても決してオーバーではない位にきつかった。階段を何も持たないで往復するだけだってつらいのに……。

ぼくたちはエジプトでピラミッド建設のために石を運び上げる人夫よろしく、黙々と2Fにダンボール箱を積み上げていった。二人とも意識もうろう状態。

みどりさんも、一生懸命手伝って(?)くれようとしていた。玄関に山積みしてあるダンボール箱を一つづつわざわざ下に降ろして床に置いている。彼女にとってはそのほうが楽だろうと思ってしたことは確かだが、腰をかがめてその重い箱を持ち上げるのは、非常につらい作業になる。

「よけいにしんどいから、やめてよね」
「えっ? 邪魔なん」
「腰ぐらいの高さにある方が取りやすいのに、何でわざわざ下におろすん。もう何にもせんでもいいから邪魔せんといて」

「せっかく手伝ってたのに……」

みどりさんは何かぶつぶつと言っていたが、おとなしく二階の台所に入っていった。

S君と階段ですれ違うたびに互いに顔を見合わせて「ぼちぼちやりや」と何度も言い合った。途中で休憩しようかとも言ったが、休憩するとよけいにしんどくなりそうだから一気にやり遂げることにした。

その地獄のような作業が終わるのに一時間はかかった。今思い出しても心臓が口から飛び出しそうな位のきびしい作業だった。汗をかき過ぎて、おしっこもでない。

運び終えた本の塊は、底辺が70センチ四方で高さが二メートルぐらい。それが三山も二階の部屋に積みあがっていた。

「二階の床が抜けてしまいそうやね」。

今日二度目のみどりさんの言葉。

たしかに床が悲鳴をあげていたことは確かだ。相撲の小錦関がドシン、ドシン、ドシンと家にやって来て部屋の中に突っ立っているような感じなんだから。電卓で計算すると、総重量は約1・2トンもあった。三人とも目をくるくるさせてのけぞった。早く三階にも分散しなくてはとぼくは思った、がもう体力が限界でヘトヘトだ。

運び終えたとたん、急に腹がへったぁ〜という感覚が起こってきたので、みどりさんが用意してくれた遅めの昼食を三人で囲み、ここまで手伝ってくれたS君に何度も何度も二人で「ありがとう」とお礼を言った。

弁当を食べながら、箱の中から取り出した本を手にとって眺めた。本を見たとたんさっきまでの疲れがウソのように吹き飛んで、喜びへと変わっていく。

本当にうれしかった。今まで経験したどんな出来事よりもうれしかった。表紙をみて感動し、裏表紙をみて喜び、ぱらぱらと中味をめくっては興奮した。ここに初版本(左の大国主の絵)と4刷り目にリニューアルした今の表紙(右のあめのうずめ)をアップします。

  

みどりさんはまるで自分の産みだした子どもでも見るようにやさしく本を手にとってウルウルしていた。

ぼくとS君はしばらく彼女をそっとしておいて、もくもくと弁当を食べた。振り返ってみれば、ここまでくるのにほんとうにいろいろなことがあった。

一冊一冊手作りしていた時の苦労や、はじめに発注した印刷屋さんとのトラブルなんかが走馬灯のようにぼくの脳裏をよぎっていった。そのすべてが今、喜びに変わっている。

苦労すればするほどその後に来る喜びが大きいというのは本当だ。

S君にもう一度「ありがとう」と言って二人で玄関まで見送った。

さて、ぼくはこの本をあっちこっちに分散して、置くという仕事がまだ残っている。このままでは寝る場所がないのだ。いくらなんでもこの本の上で寝るわけにはいかない。

この部屋に20箱。こっちの隅に10箱。階段の踊り場に10箱。テーブルの下に5箱と。二階・三階の空きスペースを探しては、疲れないようにゆるゆると本を運んだ。重いことには変わらなかったが心は弾んでいた。

自分で本を出すということは、なんてすばらしいことなんだろう。 本当に記念すべき一日だった。

しかし、ぼくたちは本が家に届いたといっていつまでも喜びに浸っているわけにはいかない。明日からは注文してくださった方にお礼の手紙を添えて本の発送を開始しなければ……。

この日、ぼくはぼろ雑巾のようにくたびれて眠った。本を枕もとに置いて……。

というところで今回はおしまい。

このあと、本を買っていただくのは本当に大変、なんだということが身にしみて判りました。しかしものすごく楽しいことでもありました。次回からはドタバタ行商記となりますので楽しみにしてください。

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『古事記のものがたり』・本のできるまで
その19