『古事記のものがたり』・本のできるまで
その1

「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記その14


救世主現る!

ちょうどその頃、巷ではノストラダムスの大予言が大流行? していた。なんでも1999年の大の月にアンゴルモアの大王が空から降ってきて地球が滅亡するというので本屋の棚にはノストラダムス関連の本がずらっと並んでいた。

その滅亡の日が1999年9月9日のことらしいとか、違うとか? 彗星が地球に衝突するとかしないとか? テレビでも特集を組んでお笑いタレントや北野たけしなどが面白おかしく討論していた。

ぼくはそんなことよりも、せっかく進んでいた『古事記のものがたり』の出版がこんな風にストップしてしまうなんてどうしたらいいのだろうか。どうしようか、と悩んでいた。

これまでに、既に300人以上の人から予約はもらっているし、なかには早々とお金を振り込んでくれた人もいる。(予約の電話やファックスもぽつぽつと入ってきている)

それに例の校長先生からの紹介の神社さんが、本ができたら大量に買ってくれるという約束もあるので、いまさら本が出版できなくなりましたなんて、みんなに言えないし。

「もう止めじゃ!」
の一言で、すべてがパアーになってしまったなんて信じられない。

しかしくよくよ悩んでいる場合じゃない。ぼくは以前に「レタッチ」という仕事をしていたときに勤めていた写真製版の会社のことが頭に閃いた。そうだ一緒に働いていた営業のS君に事情を話して相談してみよう。

さっそくみどりさんにこのことを伝え、すぐにその会社に電話を入れた。(このときのぼくの行動力のすばやさは、みどりさん顔負けだったといまでも思っている)

電話はすぐに繋がった。S君はぼくのことを良く覚えてくれていた。わけを話すと、S君は次の日すぐに来てくれることになった。

次の日の朝、(1999年9月9日9時9分)大予言の時刻に、ぼくたち二人は地球とサン・グリーンが滅亡しないように正座して一分間の黙祷をした。

というのも、その筋の友人たちのネットワークから「地球を救うために、同じ時間にみんなで祈り、地球滅亡を回避しよう」という情報が回ってきていたからだ。

ぼくはそんなことどうでもよかったのだが、地球が壊れたらきっと大変だし、サン・グリーンも滅亡してほしくないので真面目に祈っていた。

そんな日の午後、S君は家に来て親身にぼくたちの話しを聞いて、なんとか安くあげるためにいろいろ知恵をしぼってくれた。簡易印刷という手法があるので、それなら見栄えも変わらないし、しっかりした本ができるからすぐに見積もりを出してみましょうといった。


この簡易印刷という方法で本をつくるとすると、ぼくたちのほうが、1ページづつ、全ページ、編集、デザイン、文字組み、文字校正などすべてしなくてはならないのだ。

早く言えば、272ページの本をバラで完成した状態で渡すということだ。

つまり製本が出来上がった状態を、その本を全部ばらして、1ページ1ページにして、その1ページ1ページを、こちらが全て作るということだ。

ぜんぜん早く言えてないじゃないか! 意味不明だし!
(とにかく、もっと詳しく知りたい人は個人的に教えるのでメールでもください)


次の日、すばやく送られてきた見積もりの金額を見て、ぼくは案外に安いのに驚いた。もっとビックリしたのはその見積もりに箱代も運送費も入っていることだった。

「えっー! 全部込みでこの金額にしてもらえるの! それなら、最初からここに頼んでおけばよかった」とぼく。みどりさんは「あとで相談しても値段が上がらないのが安心やねえ」とほっとしていた。

祈りのおかげかどうか、どうやら地球も滅亡を間逃れたようだし、サン・グリーン出版もなんとか息を吹き返しそうだ。とにかくぼくたちは藁をもすがる思いでS君にすべてをゆだねることに決めた。

その後は面白いように、とんとん拍子に物事が進んでいった。S君は、本の校正やイラストの挿入箇所、難問だった表紙のカラー刷りの色調補正など、こちらが納得するまで何回でも足を運んできて相談にのってくれた。

いつしかセミの声が止み。9月15日、大型の台風16号が大阪に上陸したという台風情報を横目に見ながら、ぼくたちは一字でも誤字脱字がないようにと、慎重に何度もなんども二人で読みあわせをして、数日間かけて文字校正に没頭した。

この文字校正というのは本当に怖いのだ。何度読み返しても、どこか間違っていて、印刷があがってきたあとで「あーっ! ここが誤字だったのに… 」と悔しい思いをした経験がある。

だから文字校正のときはぼくはいつも神経をはりつめて緊張する。それに今回は自分たちが出版する始めての本なので、なおさら力が入った。

そしていよいよ最終校正も終わり、あとはS君と会社にまかせて本の仕上がりを待つだけになって、ほっと一息ついた9月23日の午後、信じられないような電話が飛び込んできた。


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