『古事記のものがたり』・本のできるまで
その8

「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記」その8


神さま、仏さま、おおやびこさま

「ここの御祭神はおおやびこさんですね」

みどりさんが声をかけると、宮司さんは顔をほころばせてとてもうれしそうにこう言った「おやまあ、おおやびこさんのお名前を知ってくれているとはうれしいね。まあこっちに入ってお茶でも飲んでいきなさい」

さそわれるままに、みどりさんは社務所の中に入り、持ち歩いていた例の「古事記のものがたり」の本を宮司さんに見せて、この手作り本のできるまでのいきさつと、古事記を若い人に広めてくださいと夢で稗田阿礼に頼まれた話などを簡単に説明した。

そして、今日は偶然この神社の前を通りがかって、何の神さまの神社なのかまったく知らずに参拝したら、古事記に登場するおおやびこの神さまがご祭神の神社で、大きな穴の開いたご神木の木が社殿にあったので、うれしくなってくぐりぬけたことなどを素直に話した。

宮司さんはにこにこしながら本を手に取ると
「よう出来とるなぁ」と感心して、「おおやびこの神さまのところはここですね」といいながら大声でその箇所(第16話)を読み始めた。

「木の国から根の国へ……そこで母神は息子をかくまってもらうために、紀(木)の国に住む『おおやびこ』という木の神さまのところに逃がしました」の場面にくると宮司さんは一段と大きな声で読み始めた。

あまり宮司さんの声が大きいので(まるで小学校の生徒が先生に名指しされて大声で国語の本を読むような感じだったと、あとでみどりさんはぼくに話してくれた)同行していた日本画家の友人も何事かと社務所に入ってきて、宮司さんがおおやびこの神さまが登場するシーン(5ページほど)を読み終わるのをくすくす笑いながら聞いていた。

そして、みどりさんやぼくがこの本をなんとか広めたいとおもって、いろいろ苦労しているという話を宮司さんに伝えてくれた。

宮司さんはその友人の話を聞くと「古事記は本来、わたし達神社のものが広めなくてはいけないのに、こうやってあんたたち若い者が、一生懸命広めようとしてくださっているとはありがたいことです」と言って、「伊勢の神宮会館にわたしの息子がおるから、ひょっとしたら何か力になってくれるかもしれません。連絡しておくから1度たずねてみなさい」と、息子さんの連絡先と住所を教えてくれた。

帰りがけには真っ白い封筒をみどりさんに手渡して「これは何かの足しにしてください」と金一封をくださった。

みどりさんは神社というところは普通はお賽銭や玉串料を渡して参拝するところと思っていたので、こんな宮司さんがこの世にいるなんてめちゃくちゃ感激した! と、帰ってくるなりぼくに伊太木曾神社での出会いを興奮しながら報告した。

この時点では、ぼくたちはまだこれから先どうなってゆくのかがわからなかったのだが、みどりさんは「古事記の本に書いてあるとおりに『おおやびこさん』がきっとわたし達を助けてくださるに違いない! 神さま仏さまおおやびこさま」なんてひとりで興奮して、さっそく伊勢の神宮会館の奥宮司さんの息子さんという人に連絡を入れた。

その一週間後には、日本画家の友人と一緒にはりきって伊勢神宮に出かけていった。

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