『古事記のものがたり』・本のできるまで
その9

「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記」その9


「夏至の日の緑色の太陽の奇跡」

これから先、伊勢に行っていないぼくには、話が書けないのでみどりさんに代わって伝えてもらうことにして、しばらく僕はひっこむことにします。
では、みどりさんどうぞ…。

はい、わかりました。じゃあ、ここらからは私が代わって書かせてもらいますね。

善は急げなので、私は伊太祈曾神社の宮司さんの息子さんが勤めている伊勢の神宮会館にさっそく電話をいれた。既に私のことは連絡が入っていたようで、電話口にでた息子さんはとても気さくに私の話を聞いてくださった。

「そしてとにかくお会いしましょう、一度こちらに来てください。その上で話を聞きましょう」と言ってくださった。

そこで私は日本画家の友人に同行してもらって、一週間後の6月22日、夏至の日に伊勢神宮に行くことなった。運良く、伊勢の市役所の知人も参加して応援してくれることになり、三人で伊勢神宮会館に出向くことが決まった。

伊勢神宮会館の受付で奥宮司さんの息子さんの名前を告げると、「館長にご面会の方ですね、どうぞこちらへ」と立派な応接間に通されたのだ!

「えっ…!奥宮司さんの息子さんって、神宮会館の館長さんやったん!」そんな偉い人やなんて、宮司さんは一言も言わなかったので、私たち三人は思わず顔を見合わせてびっくり!

ともかく、応接室のフカフカのソファーに座って、緊張しながら奥館長さんを待った。

しばらくして「やあ、ようこそ、大体の話は親父から聞いていますが、ともかく話を聞きましょう」といって、ハンサムでカッコいい中年の男の人が笑顔で部屋に入ってきた。奥重視館長さんだった。

私は、これまでのいきさつをかいつまんで話した。何社もの出版社から出版を断られたこと、あげくに、本を一冊一冊手作りしてなんとか四冊まで作ったけれど、これでは私たちが生活ができないので頭を抱えて困っていること。

そのときちょうど日本画家の友人と和歌山県の神社に参拝した帰り、偶然伊太祈曾神社にお参りしたこと。そして古事記に書かれているのと同じ大きな穴のあいたご神木を社殿で見つけたので、その穴を通り抜けたら奥鈴雄宮司さんに出会ってこうして伊勢神宮まできた話を手短に話した。

奥館長さんは黙って私の話を最後まで聞いてくれ、手作りの本を手に取り、これがその本ですか? とページをめくりながらしばらく考えていた。

同行してくれた二人の友人もどんなに私たちが古事記を一生懸命伝えたいと真剣に思っているかを館長さんに伝えて応援してくれた。私も夢で稗田阿礼から頼まれたこともあって、なんとか本にして世に出したいのだが、いい知恵が浮かばなくて途方にくれていることも素直にお話した。

奥館長さんは、しばらくしてこう切り出した。「とにかく自費出版でもいいから、この「古事記のものがたり」を本にして出版してみたらどうですか? 本ができたら僕が神社新報という日本中の神社に発行している新聞にこの本の推薦文を書いて載せてもらうように編集長に頼んでみるから…」

「えっー! 日本中の神社が購読している新聞に推薦文と書評が載ったら、そのうち何件かの神社から注文が入るかもしれない? そしたらたとえ一般書店に並ばなくても、きっとたくさん本が売れる!!!!」

私は、天にも昇る気持ちで、「わかりました、自分たちでなんとか自費出版してみますので、そのときはどうかよろしくお願いします!」と、奥館長さんに宣言した。

こうして三人で伊勢神宮のアマテラス様にお礼の参拝をして帰路についた。あまりの成り行きに私の心は踊るようだった。全国の神社にこの本が広まったら、きっとものすごいことになる。やっぱり、古事記の中の出来事は本当だった。おおやびこの神様が木の穴をくぐった私を助けて伊勢に行かせて下さったに違いない。

あまりのうれしさで舞い上がった私の目に大きな夏至の太陽が緑色に見えだした。この不思議な現象は、きっとアマテラスさまが「サン・グリーン」を応援してくださっている証拠に違いないと一人で確信して大喜びで帰宅した。

でも、このとき私は本を自費出版するにはかなりの大金が必要だということをすっかり忘れていたのだ。

大阪に帰って、「奥宮司さんの息子さんは伊勢の神宮会館の館長という要職についている人で、伊勢神宮崇敬会の事務局長も兼任していて、本が出来たら神社新報という日本中の神社が購読している新聞に推薦文を書いて書評を載せてくれると約束してくれはったぁ!」といって勢い込んで報告したのに、小林君は「自費出版の費用をどうすればいいのか?」ということで頭が一杯になったみたいで、難しい顔をして黙りこんでしまった。

そんなことを小林君が考えているとは露ほども知らなかった私は、「とにかく、伊勢神宮会館の館長さんが応援してくれはったら百人力やんか! 一日も早く自費出版しようや!!! おおやびこの神さんとアマテラスさまが応援してくれはる。やったぁー! 太陽も緑色になったし! これは奇跡やでぇ!」と一人で興奮して喜んだ。

……ということだったらしいのですが、伊勢での出来事は判って頂けたでしょうか? 実は本当に大変だったのは、これからだったのだ。本を自費出版さえすれば、アマテラスさまが助けてくれはると有頂天になっているみどりさんを尻目に、僕は失業保険も切れてお金の無いみどりさんと、残り少ない僕の預金通帳が脳裏に浮かんで途方にくれるばかりだった。


もどる◆◆その10へ◆◆◆TOP
/////////10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/