『古事記のものがたり』・本のできるまで
その3


「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記」その3


本にしないのですか?

その日から古本屋で『古事記』関連の参考図書を買いあさり、すぐに書き始めた。何しろインターネットの中での連載なので、長い文章だとパソコンでは読みづらいだろうと考え、一話あたりの文字数を1500文字ぐらいにすることにした。そして電子紙芝居のつもりでまた来週も読みたくなるように盛り上がったところで話を切って、次週に続けて読者を引っ張ってゆければと考えた。

それから、内容が『日本の神話、古事記』だから、あくまで文字をパソコンの画面上で縦に読めるようにとこだわった。プログラマーには何かと勝手な注文をだして苦労をかけた。その頃、ぼくたちはパソコンを持っていなかったので、これが当時としては技術的に難問だということを理解していなかったのだ。

一枚目のイラストができ上がったとき、すごくパワーがあっていい絵だったので、みどりさんはとてもよろこんでいた。この最初のイラストがぼくたちのホームページのトップを飾っている荒木尚美さんの稗田阿礼のイラストだ。(2003年1月より、日本画家の池田金晄さんのアメノウズメに変更)

インターネット上での連載は4月からスタートした。でも、情けないことにパソコンを持っていないぼくたちは、Sさんの会社から白黒でプリントアウトした原稿がFAXで送られてくるまで、その画面を自分たちで見ることも読むこともできなかった。

けれど、某大会社の部長さんが、「『古事記のものがたり』をネット上で読んだよ、面白かったよ」、と言って何週間分かをカラーでプリントアウトして送ってくれた。この部長さんは本当に人のいい親切な人で、このあともぼくたちがやっとパソコンを買えるようになったときの相談や、ウイルスにやられた時にもお世話になっている。とにかくそのとき初めて、カラーで自分たちの原稿を見て感激したものだ。

その頃は、ぼくたちの友人達でもまだ個人でパソコンを持っている人は、本当に少なかった。だから、インターネットに連載しているといっても、実際はどれだけの人が読んでくれたかはわからない。とにかくプリントアウトした『古事記のものがたり』をコピーして、古神道を学んでいる友人や知人に読んでもらって歩いた。ぼくたちは、これをまとめて本にするということなんかまったく頭になかった。ただ毎週毎週、一所懸命に二人で古事記を紐解きながらやさしく面白く書くという作業に熱中していた。

そして何とか半年の連載期間が終わった。その前後から「この古事記ならわかりやすくて読みやすいからぜひ本にしてよ」という声を何人かの友人から、ちらほらと聞くようになった。けれどぼくたちは自分たちの本を出したいとは日頃から考えてはいたが、それは創作小説であって、『古事記』ではなかった。

そんなある日、みどりさんは夢を見た。夢に稗田阿礼が現れて『古事記』を語り伝えていってくださいと頼まれた? のだそうだ。そして「神話を忘れた民族は滅びます!」と言ったというのだ。「日本民族が滅んでしまっては大変や何とかこれを本にして出版してみんなに読んでもらわなあかん。これが私ら二人の使命や! そのために私らは生まれてきたんやで!」

こうなったら、みどりさんは手がつけられない。理屈や理論を飛び越えてなりふりかまわず直進するタイプなのだ。いつもぼくはこんな彼女に振り回されて心配ばかりしている。しかし、今度ばかりはみどりさんの言うことも頭がおかしくなった? とはいえない迫力を感じた。

物事に集中していると寝ていても次のストーリーやアイデアなんかが次々出てきたりすることはよくあることで、今回の夢もたぶんそのたぐいだとぼくは思ったが、本にして出版するのはすごく魅力的な話だ。

連載のコピーを持っていろんな人に配ったりしていた時、ほとんどの人が『古事記』を知っていても、読んだことがないという人が多かったのには驚いた。もちろんぼくもこの仕事がくるまではそうだった。読みたいと思うんだけど途中であきらめてしまったとか、いつかは読もうと思ったまま忘れている人ばかりだった。

僕たち二人もそれは同じ。あまりにも神さまの名前がおおくて、その上へんてこりんでわけが分からない。眠りたいときに読めばすやすやと寝ることのできる一種の睡眠薬のような本なのだから。特に学者さんや研究書のたぐいなどはより深い眠りへといざなわれるはず。

ところが連載していて分かったのだけれど『古事記』はそんなに退屈な本ではない。ややこしい神さまの名前にしてもすごく単純につけられていることが多い。大きなお尻の神さまは、『おおけつ姫』と言う具合に。他にも、日本の昔話の原型はすべてこの一書に収まっていることも発見した。生活習慣はもちろんのこと、古代から受け継がれてきた大切な智恵がいっぱい書いてあるのだ。

ぼくたちが意図しなくてもこうして回りから「本にしてよ」という声が起こり、二人の考えは少しづつ出版について真剣に考えるようになっていった。まんまと八百万の神々の仕掛けた罠にはまってしまったのかもしれない。。

このあと、出版までの道程は、
1、出版用に書き直し。
2、出版社を探す。
3、書店に並ぶ。
4、売れる。
という風にしか考えていなかった。あまりにも単純でアホであったが、まず1から始めることにした。1998年も暮れようとしていた。

次回につづく


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