飯の湯気梅雨の面にあたゝかき
すいすいと草そよぎをり蛇苺
じやがいもの花に朝の蚊沈みゆく
茄子の花朝の心新しく
羅の袂に触れし女鹿かな
涼みをる我等に月のまどかなる
ざざ洩りの柄杓とりあぐ清水かな
鳩立ちて児は呆然と風かほる
満潮の松島湾に藻刈屑
水を汲む豊かな音に夏暁けぬ
夏草のひそかに暗く暁けにけり
髪切虫ぎぎぎとこたふ闇に捨つ
大坂の西日の屋根の重なれる
車前草の小さくたしかな梅雨の影
雨涼し白衣ながらも肩の幅
海の風アーチのばらにことごとく
大椎の中よりいでし梅雨の蝶
藁屋根に梅雨の大松かぶされる
鮎掛の移りし水の月明り
物言はぬ独りが易し胡瓜もみ
光陰は竹の一節蝸牛
雑用の中に梅酒を作りけり
夕若葉かんしやく玉に驚ける
生涯に尊き一と日嶽若葉
胡桃若葉積木の家の並び建つ
遠方の若葉静かや磧行く
ひらひらと地に着くまでの竹落葉
ふかふかと竹の落葉の谷をなし
竹落葉草の空間谷をなし
消え去るは君のみならず夏落葉
釘文字の五月の日記書き終る
深沼の陽炎を恋ひ籠りゐる
矢車に順じて小さき鯉幟
著莪咲けば姉の忌日の来りけり
生も死も分かず五月も過ぎんとす
初剪りの紅白の牡丹靄の中
鳩も無聊雀も無聊梅雨長し
退院の握手を医師と夏の雲
病後の身縁に椅子出し月見草
かたつむり葵の濡れしところ食む
昼蛍黒くかたまり唯の蟲
長短の花揺れやまず土用寒
野良猫の揺らして過ぎし鹿の子百合
安達太良に白雲生まれ袋掛け