和歌と俳句

種田山頭火

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あんたがくるといふけさの椿にめじろ

日が照る草は枯れて石仏

こころからあらためて霜の大根をぬく

大根の、大きいの小さいのが霜ばしら

葉のない枝が、いつしかみのむしもゐない

竹の葉に風のあるひとりでゐる

石ころを蹴とばして枯山

やりきれない冬空のくもつてくる

ふめばさくさく落葉のよろし

冬空の、この道どこへ、あるく

さいて、かげする花のちる

あるけば冬草のうつくしいみち

ウソをいつたがさびしい月のでてゐる

ウソをいはないあんたと冬空のした

冬の山が鳴る人を待つ日は

かきよせて、おこつた炭ではあるけれど

火鉢もひとつのしづかなるかな

椿が咲いても目白が啼いても風がふく

竹があつて年をとつて梅咲いてゐる

手をひいて負うて抱いて冬日の母親として

このさびしさは山のどこから枯れた風

蓑虫の風にふかれてゐることも

風ふくゆふべ煙管をみがく

枯野をあるいてきて子供はないかなどといはれて

ゆふ空へゆつたりと春めいた山

林のなかへうしろすがたのふりだした春雪

昼はみそさざい、夜はふるらうの月が出た

寝ざめ雪ふるさびしがるではないが

雪が霙となりおもひうかべてゐる顔

ひとりへひとりがきていつしよにくうねる

梅はさかりの雪となつただんだんばたけ

雪を見てゐるさびしい微笑

雪のしたたり誰もこないランプを消して

恋のふくらうの逢へらしい声も更けた

枯れた葉の枯れぬ葉の、日のさせば藪柑子

風の鴉の家ちかく来ては啼く

あんたは酒を、あんたはハムを、わたくしは御飯を炊く

ふたりいつしよに寝て話す古くさい夢ばかり

枯れて草も木もわたくしもゆふ影をもつ

ぬかるみのもう春めいた風である

まがらうとしてもうたんぽぽの花

大根も春菊もおしまいの夕空

ふるつくふうふう酔ひざめのからだよろめく

バスが通る水田の星もうるめいてゐるを戻る

春めいた夜のわたしの寝言をきいてくれるあんたがゐてくれて

酔うていつしよに蒲団いちまい

あんなところに灯が見える山が空がもう春

ふたりでふみゆく落葉あたたかし

落葉ふんではふたりで枯枝ひらふなんど

わたしが焚くほどの枯木はおとしてくれる山

梅がひらいてそこに蓑虫のやすけさ

をちこち畑うつその音もめつきり