苗売に白猫梅をまつさかさ
苗売に爪磨ぐ猫の眼が梅に
苗売のあとしづしづと定齋売
苗売の荷置きて田水注ぎ居り
微風うけて苗売草鞋あたらしく
苗売の声白日に花浮べ
昼の月いとど濃まさり若葉うへ
やはらかに葉ひろにたるも若楓
ゆさゆさとさゆるるときも若楓
二三枚吹かれかへるも若楓
うれの葉のみなほのぼのと若楓
葉の中に降りこむ雨や若楓
青穂麦若葉々々のあひ間かな
風なごむ若葉野に夕ちかき照り
しかけ降りしかけぶりして若葉雨
松の芯すでに見え居り若葉雨
葉の上に降りやむ雨や枝わかば
山門前の大筍でありにけり
美しき空を雲間や麦の秋
干蚊帳に留守居の子等や麦の秋
干す蚊帳のかうも古びて麦の秋
編笠の人ちらほらす麦の秋
編笠の娘の紅脣や麦の秋
灯して過ぎる列車や麦の秋
麦秋の畑のにほひにとぶ蛍
麦秋の香に育ちてはゆふ蛍