和歌と俳句

原 石鼎

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苗売に白猫梅をまつさかさ

苗売に爪磨ぐ猫の眼が梅に

苗売のあとしづしづと定齋売

苗売の荷置きて田水注ぎ居り

微風うけて苗売草鞋あたらしく

苗売の声白日に花浮べ

昼の月いとど濃まさり若葉うへ

やはらかに葉ひろにたるも若楓

ゆさゆさとさゆるるときも若楓

二三枚吹かれかへるも若楓

うれの葉のみなほのぼのと若楓

葉の中に降りこむ雨や若楓

青穂麦若葉々々のあひ間かな

風なごむ若葉野に夕ちかき照り

しかけ降りしかけぶりして若葉雨

松の芯すでに見え居り若葉雨

葉の上に降りやむ雨や枝わかば

山門前の大筍でありにけり

美しき空を雲間や麦の秋

干蚊帳に留守居の子等や麦の秋

干す蚊帳のかうも古びて麦の秋

編笠の人ちらほらす麦の秋

編笠の娘の紅脣や麦の秋

灯して過ぎる列車や麦の秋

麦秋の畑のにほひにとぶ蛍

麦秋の香に育ちてはゆふ蛍