大宰少弐小野老朝臣歌一首
青丹吉寧楽乃京師者咲花乃薫如今盛有
あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり
防人司佑大伴四綱歌二首
安見知之吾王乃敷座在国中者京師所念
やすみしし我が大君の敷きませる国の中には都し思ほゆ
藤浪之花者盛尓成来平城京乎御念八君
帥大伴卿歌五首
吾盛復将変八方殆寧楽京乎不見歟将成
我が盛りまたをちめやも殆に奈良の都を見ずかなりなむ
吾命毛常有奴可昔見之象小河乎行見為
我が命も常にあらぬか昔見し象の小川を行きて見むため
浅茅原曲曲二物念者故郷之所念可聞
浅茅原つばらつばらにもの思へばふりにし里し思ほゆるかも
萱草吾紐二付香具山乃故去之里乎忘之為
忘れ草我が紐に付く香具山のふりにし里を忘れむがため
吾行者久者不有夢乃和太湍者不成而淵有乞
我が行きは久にはあらじ夢のわだ瀬にはならずて淵にありこそ
沙弥満誓詠綿歌一首 造筑紫観音寺別当 俗姓笠朝臣麻呂也
白縫筑紫乃綿者身著而未者伎禰杼暖所見
沙弥満誓、綿を詠む歌一首 造筑紫観音寺別当、俗姓は笠朝臣麻呂なり。
しらぬひ筑紫の綿は身に付けていまだは着ねど暖けく見ゆ
山上憶良臣罷宴歌一首
憶良等者今者将罷子将哭其彼母毛吾乎将待曾
山上憶良臣、宴を罷る歌一首
憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ