和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   大宰少弐小野老朝臣歌一首 
青丹吉寧楽乃京師者咲花乃薫如今盛有

あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり

   防人司佑大伴四綱歌二首

安見知之吾王乃敷座在国中者京師所念

やすみしし我が大君の敷きませる国の中には都し思ほゆ

藤浪之花者盛尓成来平城京乎御念八君

藤浪の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君

   帥大伴卿歌五首

吾盛復将変八方殆寧楽京乎不見歟将成

我が盛りまたをちめやも殆に奈良の都を見ずかなりなむ

吾命毛常有奴可昔見之象小河乎行見為

我が命も常にあらぬか昔見し象の小川を行きて見むため

浅茅原曲曲二物念者故郷之所念可聞

浅茅原つばらつばらにもの思へばふりにし里し思ほゆるかも

萱草吾紐二付香具山乃故去之里乎忘之為

忘れ草我が紐に付く香具山のふりにし里を忘れむがため

吾行者久者不有夢乃和太湍者不成而淵有乞

我が行きは久にはあらじ夢のわだ瀬にはならずて淵にありこそ

   沙弥満誓詠綿歌一首 造筑紫観音寺別当 俗姓笠朝臣麻呂也 
白縫筑紫乃綿者身著而未者伎禰杼暖所見

   沙弥満誓、綿を詠む歌一首 造筑紫観音寺別当、俗姓は笠朝臣麻呂なり。
しらぬひ筑紫の綿は身に付けていまだは着ねど暖けく見ゆ

   山上憶良臣罷宴歌一首 
憶良等者今者将罷子将哭其彼母毛吾乎将待曾

    山上憶良臣、宴を罷る歌一首 
憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ