元輔
ひとりのみ 年へけるにも おとらじを かずならぬ身の あるはあるかは
よみ人しらず
風はやみ 峯のくすはの ともすれば あやかりやすき 人のこころか
中納言家持
久方の あめのふるひを ただひとり 山べにをれば むもれたりけり
よみ人しらず
雨ふりて 庭にたまれる にごり水 たがすまばかは かげの見ゆべき
よみ人しらず
世とともに 雨ふるやどの 庭たづみ すまぬに影は 見ゆるものかは
太皇太后宮
あふ事の かくてやつひに やみの夜の 思ひもいでぬ 人のためには
人麿
いはしろの 野中にたてる むすび松 心もとけず 昔おもへば
よみ人しらず
けふかとも あすともしらぬ 白菊の しらずいく世を 経べきわが身そ
まさのぶ
涙河 水まさればや しきたへの 枕のうきて とまらざるらん
按察のみやす所
世の中を 常なき物と ききしかど つらきことこそ ひさしかりけれ
御返し 延喜御製
つらきをば 常なき物と 思ひつつ ひさしき事を たのみやはせぬ
伊勢
我こそは にくくもあらめ わがやどの 花見にだにも 君がきまさぬ
よみ人しらず
いはみがた なにかはつらき つらからば うらみがてらに きても見よかし
本院侍従
それならぬ 事もありしを わすれねと いひしばかりを みみにとめけん
よみ人しらず
みかりする こまのつまづく あをつづら 君こそ我は ほたしなりけれ
よみ人しらず
君見れば むすぶの神ぞ うらめしき つれなき人を なにつくりけん
貫之
いづれをか しるしとおもはむ 三輪の山 ありとしあるは 杉にぞありける
藤原長能
我といへば いなりの神も つらきかな 人のためとは いのらざりしを
よみ人しらず
滝の水 かへりてすまば いなり山 なぬかのほれる しるしとおもはん
よみ人しらず
思ひいでて とふにはあらず 秋はつる 色の限を 見するなりけり
よみ人しらず
ゆゆしとて いむとも今は かひもあらじ うきをば風に つけてやみなん
貫之
ひとりして 世をしつくさば 高砂の 松のときはも かひなかりけり
貫之
玉藻かる あまのゆき方 さすさをの 長くや人を 怨渡らん
貫之
たのめつつ 別れし人を まつほどに 年さへせめて うらめしきかな