今よりは 心のままに 月は見じ ものおもひまさる つまとなりけり
月みれば 誰も涙や とまらぬと 思ふことなき 人にとはばや
かくばかり 隈なく見ゆる 月影の 心の内を 照らさましかば
ふけにける わが世のほどぞ あはれなる かたぶく月は またも出でなむ
千載集・秋
ふけにける 我が世の秋ぞ あはれなる かたぶく月は またも出でなん
ひさかたの 天のおしてや これならむ 秋のしるしと 見ゆる月影
ひたすらに いとひもはてじ むら雲の 晴れ間ぞ月は 照りまさりける
ちよの秋を ひとよになして 眺むとも あかでや月の 入らむとすらむ
浮雲は 麓にかかる 高嶺にて ゆくへも知らず 月を見るかな
はつせ山 峰のやどなる 旅寝には 枕よりこそ 月はいでけれ
今宵こそ 雲間の月に さしそへて まためづらしき 影は見ゆなれ
めもあやに 見ゆる今宵の 月影に はたおり添ふる 虫のこゑかな
三日月は 山のあなたの 里人の 惜しむをわれて いづる姿か
ほのぼのと あらしのこゑも なりにけり しらつき山の 有明の空
おほかたは 秋のなかばと きくものを 月の光は 満ちにけるかな
むかしより いつはりならぬ ひとことは 今宵の月の 光なりけり
ひにそへて こゑよわりゆく きりぎりす いま幾夜とて つづりさすらむ
もろこゑに 秋の夜すがら なく虫は 花のねぐらや 露けかるらむ
限りなき 齢のみかは 見るからに 心も伸ぶる 白菊の花
八重菊の 咲けるところの 名にしおはば 今ひとへをば 添へてみてまし
花咲かで 老いぬる人の まがきには きくさへ時に あはぬなりけり