衣打つ きぬたの音に 夢さめて ことぞともなく 濡るる袖かな
山田守る きそのふせやに 風ふけば 畦つたひして うつつおとなふ
草の葉に 風をとづれて 夜と共に 涙もよをす 秋の空かな
うき身には 山田のおしね おしこめて 世をひたすらに うらみつるかな
山里は いていこのへる たもとこに 風そよめきて 袖しをるなり
おぼつかな たが袖のこに ひき重ね ほふしこのいね かへしそめけむ
くもりなく 夕月夜をも 見つるかな こや神山の しるしなるらむ
白河の よどみに宿る 月見れば 靡く玉藻ぞ 雲となりける
君が代を 空に知りてや ひさかたの あまてる月も 影をそふらむ
木の葉ちる 秋にしなれは 照る月も あはれをかげに そふるなりけり
はやくいでて 門田にやどれ 秋の月 はのぼる露の 數や見ゆると
千載集
あすも来む 野路の玉川 萩こえて 色なる波に 月やどりけり
わきかへる 岩間の水に すむ月は 波に砕けぬ つららなりけり
そらもそら 月もよごろの 月なれど こよひになれば ひかりことなり
ひきわくる 駒ぞいはゆる 望月の みまきの原や 恋しかるらむ
秋の夜は 月もあかしの 浦風に 波の花さへ 咲きそひにけり
こがくれて 波のおりしく 谷川の みなむしろにも 月はすみけり
天の川 岩越す波や あらふらむ 清くもすめる 月の影かな
金葉集
山の端に 雲の衣を 脱ぎ捨てて ひとりも月の たちのぼるかな
あくがるる 心のそらに 通はずは 誰とか月の 西へゆかまし