風ふけば 萩のはひえに 波こえて えもいはぬまの みはぎをぞみる
置く露に しほるるだにも あるものを たわなる萩に 秋風ぞふく
山里は すとかたけりき 咲きはやす はぎをみなへし こきまぜてけり
金葉集
鶉なく 真野の入江の 浜風に 尾花なみよる 秋の夕ぐれ
さしこえて すすきはほかに まねけども 女郎花をぞ 手折りにも来る
かきわけて まねく袖には むつるれど いふこともなき 花薄かな
花薄 まそほの糸を くりかけて たえずも人を 招きつるかな
まねけども うれしげもなし 花薄 風にしたがふ 心とおもへば
ま熊野に 雨そを降りて 木隠れの つかやにたてる 鬼の醜草
ささがにの いかにかかれる 藤袴 たれを主とて 人のかるらむ
染めかけて 籬にさほす 藤袴 まだきも鳥の 踏み散らすかな
きりぎりす 丘の萱根に 夜もすがら なくね身にしみ 秋は来にけり
きりぎりす わがよもぎふに 生い立ちて なぞや主に ねをなかすらむ
数ならで ふりぬることを 鈴虫の なきかはしても 明かしつるかな
夕されば 野辺もや物を 思ふらむ 松虫なきて 露しめりせり
秋の夜を 誰とともにか 明かすらむ 虫のねきかぬ 人にとはばや
よはりゆく 虫の声にや 山里の 暮れぬる秋の 程を知るらむ
霜さゆる おどろのゆかの きりぎりす 心細くも 鳴きよわるかな
初雁は 雲ゐのよそに 過ぎぬれど 声は心に とまるなりけり
雁がねも はねしをるらむ ますけおふる いなさほそえに あまつつみせよ