すがれたる薔薇をまきておくるこそふさはしからむ恋の逮夜は
香料をふりそそぎたるふし床より恋の柩にしくものはなし
にほひよき絹の小枕薔薇色の羽ねぶとんもてきづかれし墓
夜あくれば行路の人となりぬべきわれらぞ さはな泣きそ女よ
其夜より娼婦の如くなまめける人となりしをいとふのみかは
わが足に膏そそがむ人もがなそを黒髪にぬぐふ子もがな
ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり
うなだれて白夜の市をあゆむ時聖金曜の鐘のなる時
ほのかなる麝香の風のわれにふく紅燈集の中の国より
薔薇よさはにほひな出でそ あかつきの薄らあかりに泣く女あり
初夏の都大路の夕あかりふたたび君とゆくよしもがな
君が家の緋の房長き燈籠も今かほのかに灯しするらむ
都こそかかる夕はしのばるれ愛宕ほてるも灯をやともすと
黒船のとほき灯にさへ若人は涙落しぬ恋の如くに
幾山河さすらふよりもかなしきは都大路をひとり行くこと
かなしみは君がしめたる其宵の印度更紗の帯よりや来し
二日月君が小指の爪よりもほのかにさすはあはれなるかな
何をかもさは歎くらむ旅人よ蜜柑畑の棚によりつつ
ともしびも雨にぬれたる甃石も君送る夜はあはれふかかり
ときすてし絽の夏帯の水あさぎなまめくままに夏や往にけむ