和歌と俳句

高浜虚子

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冬籠われを動かすものあらば

凍蝶の蛾眉衰へずあはれなり

木の根より下がる氷柱の揺れてをり

寒月のいびつにうつる玻璃戸かな

一つ啼き枝を踏み替へ寒鴉

口明けてやうやく啼きぬ寒鴉

今宵はもよろしき凍や豆腐吊る

春を待つ炬燵の上に句帳置き

食小さくなりて健か冬籠

二行書き一行消すや寒灯下

汚れたる雪の山家に日脚のぶ

吹き込みし雪を掃き出す廁かな

念力のゆるみし小春日和かな

琴坂の落葉に運ぶ老の杖

常寂光浄土に落葉敷きつめて

うち仰ぎ時雨るといひて船出かな

時雨つゝ大原女言葉交しゆく

生姜湯に顔しかめけり風邪の神

腰あげてすぐ又坐る冬籠

掃き寄する帚に焚火燃え移り

燃え盛る焚火の音に障子開け

荷造りもせずに火鉢や応対す

蒲団荷造りそばに留別句会かな

大雪に埋みてありぬ鶏小屋も

吹き込みし雪を掃き出す厠かな

雪るを忘れて山家暮しかな

霜除けの縄の結びめきくきくと