和歌と俳句

種田山頭火

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身のまはりかたづけてすわる私もよい人であらう

柿をもぐ父と子とうへしたでよびかはし

水たたへたればいちはやく櫨はもみづりて

実ばかりの柿の木になんとほがらかな空

雑草みのつて枯れてゆくその中に住む

めづらしく人のけはひは木の実ひらふこゑ

やつと汲みあげる水の秋ふかく

ひよいと手がでて木の実をつかんだ

大根いつぽんぬいてきてたべてそれでおしまい

明けるよい小鳥の挨拶でよいお天気で

残された二つ三つが熟柿ちなる雲のゆきき

時計を米にかへもう冬めくみちすぢ

ま夜中ふと覚めてかきをきかきなほす

ほほけすすきもそよがないゆふべの感傷が月

或る予感、はだか木に百舌鳥のさけぶや

灯のとゞく草の枯れてゐる

ああいへばかうなる朝がきて別れる

草山のしたしさを鶯もなき

月のあかるい水くんでおく

窓からいつも見える木のいつかもみづれる月あかり

月のひかりの、はだか木の、虫のなくや

ひとりで朝からけぶらしてゐる、冬

もう冬空の、忘れられてあるざくろの実

糸瓜からから冬がきた

いちついてゐる月夜雨降る

月の落ちた山から鳴きだしたもの

けふから時計を持たないゆふべがしぐれる

ちよつとポストまで落ちる葉や落ちた葉や

このみちまつすぐな、逢へるよろこびをいそぐ

煤煙、騒音、坑口からあがる姿を待つてゐる

話しては食べるものの湯気たつ

分けた髪もだまりがちな大人となつてくれたか

パパとママとまんなかはベビちやんのベッド

山々もみづるはじめて父となり

けさは郵便も来ない風が出てきて葉をちらす

食べるものはあつて食べれない寒い風ふく

秋風の競売がちつともはづまない人数

おもひではかなしい熟柿が落ちてつぶれた

その鰹節をけづりつつあなたのことを考へつつ

人なつかしくかれくさみちをゆく

出かけようとする月はもう出てゐる

剃りおとして月の冴えたる野をもどる

野原をよこぎるおもひでの月がかたむいた

櫨の一枝、机の上に秋がある

うらの畑のとうがらし赤くてお留守

ゆふべはやりきれない木蓮のしろさ

いちから笠に巣くたる蜘蛛といつしよに

枯れるものは枯れてゆく草の実の赤く

枯れゆく草のうつくしさにすわる

小春ぶらぶらと卒塔婆を持つてゐる女

刈田はればれ蓼の赤けれ

あひびきまでは時間があるコリントゲーム