平畑静塔
落胡桃底移りせり濃き田川
稲車山霧の霧後になる
徒繭もちりあくたにて月の夜
山村はとぼとぼ午後となる落穂
毒茸や緑青日和側にあり
辞書枕畳に震災忌を過し
十三夜莢割の実の整へり
岳人の残す石文字原爆忌
門前のたわわ林檎はおばばの木
林檎園外一色の葛生なり
黍噛んで芸は荒れゆく旅廻
摩崖佛彫る秋風の昔かな
満月の早く出すぎる落穂かな
馬どころ馬に夜寒の胸ひろげ
流灯の末路八十島かき消えし
七夕やことりともせず骨休め
羽後米のあとを耕すただ一田
天高し聖開墾の岩のこり
秋風や岩に置くべき聖歌集