和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

藤のうら葉

わが宿の藤の色濃き黄昏にたづねやはこむ春の名残を

なかなかに折りやまどはん藤の花たそがれ時のたどたどしくば

紫にかごとはかけん藤の花まつより過ぎてうれたけれども

いく返り露けき春をすぐしきて春の紐とく折に逢ふらん

たをやめの袖にまがへる藤の花見る人からや色もまさらん

浅き名を言ひ流しける河口はいかがもらしし関のあら垣

もりにけるきくだの関の河口の浅きにのみはおはせざらなん

咎むなよ忍びにしぼる手もたゆみ今日あらはるる袖のしづくを

何とかや今日のかざしよかつ見つつおぼめくまでもなりにけるかな

かざしてもかつたどらるる草の名は桂を折りし人や知るらん

あさみどりわか葉の菊をつゆにても濃き紫の色とかけきや

二葉より名だたる園の菊なればあさき色わく露もなかりき

なれこそは岩もるあるじ見し人の行くへは知るや宿の真清水

そのかみの老い木はうべも朽ちにけり植ゑし小松も苔生ひにけり

いづれをも蔭とぞ頼む二葉より根ざしかはせる松の木々

色まさる籬の菊もをりをりに袖打ちかけし秋をふらし

紫の雲にまがへる菊の花濁りなき世の星かとぞ見る

秋をへて時雨ふりぬる里人もかかる紅葉の折りをこそみね

世の常の紅葉とや見るいにしへのためしにひける庭の錦を