かけきやは川瀬の波もたちかへり君が御禊の藤のやつれを
藤衣きしは昨日と思ふまに今日はみそぎの瀬にかはる世を
さ夜中に友よわびたる雁がねにうたて吹きそふ荻のうは風
くれなゐの涙に深き袖の色を浅緑とはやいひしをるべき
いろいろに身のうきほどの知らるるはいかに染めける中の衣ぞ
霜氷うたて結べる明けぐれの空かきくらし降る涙かな
天にます豊岡姫の宮人もわが志すしめを忘るな
少女子も神さびぬらし天つ袖ふるき世の友よはひ経ぬれば
かけて言はば今日のこととぞ思ほゆる日かげの霜の袖にとけしも
日かげにもしるかりけめや少女子が天の羽袖にかけし心は
鶯のさへづる春は昔にてむつれし花のかげぞ変はれる
九重を霞へだつる住処にも春と告げくる鶯の声
いにしへを吹き伝へたる笛竹にさへずる鳥の音さへ変はらぬ
鶯の昔を恋ひて囀るは木づたふ花の色やあせたる
心から春待つ園はわが宿の紅葉を風のつてにだに見よ
風に散る紅葉は軽し春の色を岩根の松にかけてこそ見め