心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花
寄りてこそそれかとも見め黄昏にほのぼの見つる花の夕顔
咲く花に移るてふ名はつつめども折らで過ぎうき今朝の朝顔
朝霧の晴れ間も待たぬけしきにて花に心をとめぬとぞ見る
優婆塞が行なふ道をしるべにて来ん世も深き契りたがふな
前の世の契り知らるる身のうさに行く末かけて頼みがたさよ
いにしへもかくやは人の惑ひけんわがまだしらぬしののめの道
山の端の心も知らず行く月は上の空にて影や消えなん
夕露にひもとく花は玉鉾のたよりに見えし縁こそありけれ
光ありと見し夕顔のうは露は黄昏時のそら目なりけり
見し人の煙を雲とながむれば夕の空もむつまじきかな
問はぬをもなどかと問はで程ふるにいかばかりかは思ひ乱るる
うつせみの世はうきものと知りにしをまた言の葉にかかる命よ
ほのかにも軒ばの荻をむすばずば露のかごとを何にかけまし
ほのめかす風につけても下荻の半ばは霜にむすぼほれつつ
泣く泣くも今日はわが結ふ下紐をいづれの世にか解けて見るべき
逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖の朽ちにけるかな
蝉の羽もたち変へてける夏ごろもかへすを見ても音は泣かれけり
過ぎにしも今日別るるも二みちに行く方知らぬ秋の暮れかな