行くさきをはるかに祈る別れ路にたへぬは老いの涙なりけり
もろともに都は出できこのたびや一人野中の道に惑はん
いきてまた逢ひ見んことをいつとてか限りも知らぬ世をば頼まん
かの岸に心寄りにし海人船のそむきし方に漕ぎ帰るかな
いくかへり行きかふ秋を過ごしつつ浮き木に乗りてわれ帰るらん
身を変へて一人帰れる山里に聞きしに似たる松風ぞ吹く
ふるさとに見し世の友を恋ひわびてさへづることを誰か分くらん
住み馴れし人はかへりてたどれども清水ぞ宿の主人がほなる
いさらゐははやくのことも忘れじをもとの主人や面変はりせる
契りしに変はらぬ琴のしらべにて絶えぬ心のほどは知りきや
変はらじと契りしことを頼みにて松の響に音を添へしかな
月のすむ川の遠なる里なれば桂の影はのどけかるらん
久方の光に近き名のみして朝夕霧も晴れぬ山ざと
めぐりきて手にとるばかりさやけきや淡路の島のあはと見し月
浮き雲にしばしまがひし月影のすみはつるよぞのどけかるべき
雲の上の住みかを捨てて夜半の月いづれの谷に影隠しけん