今はとて燃えん煙も結ぼほれ消えぬ思ひのなほや残らん
立ち添ひて消えやしなましうきことを思ひ乱るる煙くらべに
行くへなき空の煙となりぬとも思ふあたりを立ちは離れじ
たが世にか種は蒔きしと人問はばいかが岩根の松は答へん
時しあれば変はらぬ色に匂ひけり片枝折れたる宿の桜も
この春は柳の芽にぞ玉は貫く咲き散る花の行くへ知らねば
このもとの雪に濡れつつ逆まに霞の衣着たる春かな
亡き人も思はざりけん打ち捨てて夕べの霞君着たれとは
恨めしや霞の衣たれ着よと春よりさきに花の散りけん
ことならばならしの枝にならさなん葉守の神の許しありきと
柏木に葉守の神は坐すとも人馴らすべき宿の梢か