和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

柏木

今はとて燃えん煙も結ぼほれ消えぬ思ひのなほや残らん

立ち添ひて消えやしなましうきことを思ひ乱るる煙くらべに

行くへなき空の煙となりぬとも思ふあたりを立ちは離れじ

たが世にか種は蒔きしと人問はばいかが岩根の松は答へん

時しあれば変はらぬ色に匂ひけり片枝折れたる宿の桜も

この春は柳の芽にぞ玉は貫く咲き散る花の行くへ知らねば

このもとの雪に濡れつつ逆まに霞の衣着たる春かな

亡き人も思はざりけん打ち捨てて夕べの霞君着たれとは

恨めしや霞の衣たれ着よと春よりさきに花の散りけん

ことならばならしの枝にならさなん葉守の神の許しありきと

柏木に葉守の神は坐すとも人馴らすべき宿の梢か