もろともに大内山は出でつれど入る方見せぬいざよひの月
里分かぬ影を見れども行く月のいるさの山を誰かたづぬる
いくそ度君が沈黙に負けぬらん物な云ひそと云はぬ頼みに
鐘つきてとぢめんことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき
云はぬをも云ふに勝ると知りながら押しこめたるは苦しかりけり
夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬにいぶせさ添ふる宵の雨かな
晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心にながめせずとも
朝日さす軒のたるひは解けながらなどかつららの結ぼほるらん
ふりにける頭の雪を見る人も劣らずぬらす朝の袖かな
唐衣君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ
なつかしき色ともなしに何にこの末摘花を袖に触れけん
くれなゐのひとはな衣うすくともひたすら朽たす名をし立てずば
逢はぬ夜を隔つる中の衣手に重ねていとど身も沁みよとや
くれなゐの花ぞあやなく疎まるる梅の立枝はなつかしけれど