和歌と俳句

秋元不死男

向日葵や入日は沖へ遁げたがる

乳子ほのと立ちて新し百日紅

灼鳶の声先細り岬細る

舟虫に汐滝おとす礁の群

岬波の青渦巻の土用かな

崖に消ゆ山道ばかり岬

崖打つてのぼる濤音蟻地獄

の目の岬育ちの寂かな目

寝る蛸の水族館に蝉の声

多佳子亡しうつしみをなく雨蛙

吸血の尻うごくに縞流れ

父の日の隠さうべしや古日記

短夜の壁のみなぎる看りかな

明け易し硯離れぬ使ひ墨

六月の赤き虫とぶ深山寺

蟹の眼に磯波戯るる祭笛

突堤の海に消え落つ餓鬼忌かな

河童忌の薬くさしも鷺ま白

夏帯ほのと裏の明るき漁夫の家

浜木綿や婆につかまれ蛸媚びる

ちらと笑む赤子の昼寝通り雨

上越の夏瀬へ落す捨汽笛

雀乗る石を咥へて涼しき瀬

鳶涼し谷に挟ます術後妻

蛍火や峰に汽車おく湯檜曾駅